ボイドタイムは、西洋占星術で、月がほかの天体と主な角度をとらなくなってから、次の星座に入るまでの時間をいう言葉です。「ボイド・オブ・コース」(月の空白)とも呼ばれ、占いの手帳や本には、ボイドの始まりと終わりの時刻を載せたものがあります。物事がうまく運ばない時間、と説明されることがあります。
ここでは、この考え方がどこから来たのかを、古代ギリシャ語の辞典、1647年にイギリスで出た占星術の本の原本、占星術の歴史を調べている占星術家クリス・ブレナンの解説、国立国会図書館に残る日本の本の記録で確かめました。ボイドの効果を調べた研究があるかも探しました。紹介するのは占星術の考え方です。ボイドタイムに物事がうまくいかなくなることを確かめた研究は、見つかりませんでした。
いま使われている定義と、どのくらい起きるか

月は、星座から星座へと進みながら、太陽や水星、金星などのほかの天体と、決まった角度をつくります。占星術で主に数えるのは、0度、60度、90度、120度、180度の5つで、これを主な角度(アスペクト)と呼びます。月が、いまいる星座の中で最後の主な角度をとってから、次の星座に入るまでの間が、ボイドタイムです。
月が黄道(星座の並ぶ太陽の通り道)をひと回りするのは、約27.32日です(太陽星座の記事で紹介した、辞典の恒星月の日数です)。これを12の星座で割ると、月が一つの星座を通るのは平均で約2.28日、2日と7時間ほどになります。月の進む速さは日によって変わるので、実際の日数は前後します。
1年に月が星座を移る回数は、12×365.24÷27.32で、約160回です(計算)。この定義では、星座を移る前には、その星座の中での最後の角度のあとの時間が必ずあるので、ボイドタイムも、星座を移るたびに、年に約160回あることになります。長さは、最後の角度を星座のどのあたりでとるかで変わります。星座に入ってすぐに最後の角度をとれば、ボイドは星座を通る時間の大半になり、出る直前にとれば、ごく短くなります(定義から考えた計算の上での話です)。
「空虚を走る」月:古代ギリシャの定義は先の30度
ボイド・オブ・コースにあたる古代ギリシャ語は、「空虚を走る」という意味の言葉です。古代ギリシャ語の辞典として知られるリデル=スコット=ジョーンズの辞典は、動詞の「ケノドロメオー」を占星術の用語として取り上げ、伴う惑星がないこと、つまりボイド・オブ・コースの意味だと説明しています。用例には、2世紀のプトレマイオスの占星術書『テトラビブロス』が挙がっています。名詞の「ケノドロミア」は、古代の占星術師アンティオコスや、ポルフュリオスがプトレマイオスに付けた注解に出てきます。
ただし、古代の定義は今のものと違います。ブレナンの解説によると、アンティオコスの定義では、月がこの先30度進む間に、ほかの天体とぴったりの主な角度を一つもとらないときがボイドで、星座の境目には触れていません。月が30度進むのは約2日です。この形のボイドは年に1〜2回しか起きないまれなもので、主に、生まれたときの星の配置(出生図)を読むときの考え方だった、とブレナンは説明しています。2日あまりに1回、年に約160回起きる今のボイドタイムとは、起こる回数からして別のものです。
星座の中で見る定義は、9世紀から使われてきた
いまの定義のように「その星座にいる間に」という条件を入れたのは、9世紀の占星術師アブー・マアシャルの定義が始まりで、13世紀イタリアのボナッティを経て、17世紀イギリスのウィリアム・リリーへ受け継がれた、とブレナンは説明しています。中世から後のボイドは、問いに答える占い(ホラリー)と、物事を始める日時を選ぶ占い(エレクション)の両方で使われてきた、とも話しています。
1647年のリリーが書いたこと
リリーの『クリスチャン・アストロロジー』は、1647年にロンドンで出た英語の占星術の本です。原本の112ページ、問いに判断を下す前に知っておくべき用語を説明する章で、リリーはボイドを次のように定義しています。惑星が、ある惑星から離れたあと、その星座にいる間に、ほかのどの惑星にもすぐには近づかないとき、その惑星はボイドである。これは月に最も多い。判断するときは、月がボイドかどうかをよく見るように。月がそうなら、物事がうまく運ぶのはまれだ。(要旨)
122ページの「判断の前の注意」の節では、主な表示星がとても強い場合を除いて、月がボイドのときはあらゆる事柄がはかどらない、と書いたうえで、月が牡牛座、蟹座、射手座、魚座にあるときは、ボイドでもいくらかは物事が運ぶ、と緩めています。この節は、質問について書いた古い著者たちは皆、判断の前に注意するよう述べている、という書き出しで始まります。リリーのボイドは、人から持ち込まれた問いに答えるときの、判断の前の注意の一つでした。この本には日本語訳があり、田中要一郎さんの監訳、田中紀久子さんの訳で、第1書と第2書が2018年、第3書が2015年に出ています。
もとの記事は、古代の占星術師たちはこの時間帯を、新しいことを始めたり重要な決断をしたりするには不向きな時間だと伝えてきた、伝統的な西洋占星術では、契約書へのサイン、大きな買い物や投資の決断、初めての人への連絡や告白、就職や転職の応募や面接が向かない、と書いていました。けれども、古代ギリシャの定義は先の30度で見るもので、今のボイドタイムとは違います。今の定義に近いのは9世紀以降のものです。1647年のリリーも、問いに答える占いの注意として書いていて、契約や告白、就職を名指しした一覧は、確かめた112ページと122ページにはありません。そして、ボイドの効果を調べた研究も見つかりませんでした。
スー・ウォードの読み直し
1995年、占星術家のスー・ウォードは「判断の前の注意」という記事で、リリーが本に載せた実例を見直しました。月が星座の境目を越えた先で、許容範囲(オーブ)の中にある天体と角度をとるなら、リリーは実際にはボイドとしていなかったのではないか、という読み方です。この読み方には占星術家の間でも議論がある、とブレナンは紹介しています。
- 古代の定義
月がこの先30度進む間に、ほかの天体とぴったりの主な角度をとらないとき。星座の境目は関係ない。年に1〜2回のまれなもの。 - 中世以来の定義
月がいまいる星座の中で、もう主な角度をとらないとき。9世紀のアブー・マアシャルに始まり、1647年のリリーもこの形。今のボイドタイムはこの定義。 - ウォードの読み直し
星座の境目を越えても、許容範囲の中で近づく角度があるならボイドとしない。リリーの実例から考えた読み方で、議論がある。
20世紀に、時刻を載せた暦で日常へ
20世紀には、占星術家のアル・モリソンが、ボイドの始まりと終わりの時刻を載せた年ごとの暦を作り、この見方を広めた一人になった、とブレナンは説明しています。モリソンから手紙を受け取っていた人のページでは、何千人もの人にボイドの月を観察する価値を教えた人、と紹介されています。1982年に出たデビ・ケンプトン=スミスの占星術の本も、モリソンの方法を紹介していました。
毎回の時刻が暦に載るようになると、占星術の図を自分で作らなくても、手帳を見ればボイドの時間が分かるようになります。もとは問いに答える占いや日時を選ぶ占いの決まりの一つだったボイドが、毎日の予定を考えるときの目安として見られるようになったのは、こうした暦が広まったことが大きいと考えられます。定義が一つではないので、本や暦がどの定義でボイドを数えているかを確かめておくと、説明の違いに戸惑わずにすみます。
日本では、1985年に題に「ボイド」を入れた本が2冊
国立国会図書館の記録で、題に「ボイド」を入れた占星術の本を探すと、いちばん古いのは1985年の2冊です。3月に今井由利香さんの『月が創る魔の時間ボイド ムーンパワー占星術』(学習研究社、238ページ、雑誌『ムー』の特別編集)、12月に石川源晃さんの『ボイド占星学』(講談社、172ページ)が出ています。石川源晃さんは占星術の教室を開いていた人で、1998年にその教室に入った辻一花さんの著者紹介には、米国占星学者連盟の理事を務めた人とあります。
国立国会図書館の記録で「ボイドタイム」という言葉に当たる本は16件で(2026年10月)、いちばん古いのは2015年の、鏡リュウジさんの『鏡リュウジ 毎日の星語り』(12星座別の12冊)です。2010年代から後に出た、ボイドを章や項目に立てた本や手帳のうち、目次や版元の紹介で確かめられたものは次のとおりです。
- 2017年
叶レオナさんの『はじめてのボイド星占い』(自由国民社)。目次に「ボイド早見表」 - 2019年
石井ゆかりさんの『月で読む あしたの星占い』(すみれ書房)。第3章が「物事がいつもどおりにいかない日」 - 2021年
辻一花さんの『未来予測占星学入門』(説話社)。目次に「月のボイド・オブ・コース」 - 2022年
神谷充彦さんの『詳解 月の占星術技法大全』(説話社。2009年の本の改題)。目次に「ボイドとは何か―ボイド活用法」 - 2026年
松村潔さんの『ムーン・ダイアリー’27』(技術評論社)。版元の紹介に、物事がうまく運ばない時間帯といわれるボイドタイムの入りと明けの時刻を載せる、とある
版元の紹介の書き方が「といわれる」となっているように、手帳に時刻が載っていても、うまく運ばないことが確かめられているわけではありません。
ボイドの効果を調べた研究は見つからない
ボイドタイムに物事がうまくいかなくなるのかを調べた研究を探しました。アメリカ国立医学図書館の論文の索引で、題名や要旨にボイド・オブ・コースを含む論文は0件でした。占星術と月を題名や要旨に含む論文は6件ありましたが、どれも医学の歴史などで、ボイドを調べたものではありません。日本の論文を探せる国立情報学研究所の検索や、科学技術振興機構の論文の検索でも、ボイドタイムを調べた論文は見つかりませんでした(2026年10月)。
占星術の予測そのものを確かめた実験はあります。1985年に科学誌に載った実験では、評価の高い占星術師28人と被験者116人で、生まれたときの星の配置と性格検査の結果を照らし合わせてもらいましたが、当たり方は偶然を超えませんでした。ボイドを調べた実験ではありませんが、くわしくは太陽星座の記事で紹介しています。
もとの記事は、物事がうまく噛み合わない日、大事な連絡をしたのに話がまとまらなかった日の経験から書き始め、それをボイドタイムと結びつけていました。月を気にかけている人ほど、不調を月のせいにしやすいことをうかがわせる調査はあります。2026年のネット調査(1815人)では、月の満ち欠けを気にかけている人ほど、眠れないことを月のせいにする傾向がありました。これは関係を見た調査で、月が眠りを妨げることを示したものではありません。月と睡眠の研究は満月に眠くなるときの記事にまとめています。
ボイドタイムを気にするときの付き合い方
もとの記事は、ボイドタイムには休息や瞑想、掃除や断捨離、浄化、創作が向いている、と書いていましたが、出典は示していませんでした。1647年のリリーが緩めたのは、牡牛座、蟹座、射手座、魚座という月の星座の話で、作業の種類の話ではありません。ボイドタイムを手帳の目安として使うなら、次のような付き合い方が考えられます。
- 使っている本や手帳が、どの定義でボイドの時刻を出しているかを確かめる
- 契約や支払い、仕事の応募や面接のように、相手や期限のある予定は、ボイドの時刻より、相手の都合と中身で決める
- 気になって先に延ばすなら、延ばしても困らない予定だけにする
- うまくいかなかった日をボイドのせいにして、どこでつまずいたかの見直しをやめない
- 時刻を確かめるのが負担になってきたら、見るのをやめてかまわない
占星術の考え方としては、月がボイドのときは物事がはかどりにくいとされてきましたが、それは問いに答えるときや日時を選ぶときの決まりの一つで、効果は確かめられていません。知っておくと手帳の記号の意味が分かる、というくらいの距離で付き合うのがちょうどよさそうです。
ボイドタイムを「避けるべき時間」と決めつけない読み方を知りたいときは、石井ゆかりさんの『月で読む あしたの星占い』(すみれ書房、2019年)があります。目次によると、第3章「物事がいつもどおりにいかない日」で「ボイドタイム」とは何かを説明し、12の場面ごとのボイドタイムを取り上げたうえで、章の終わりに、ボイドタイムは大事なことを避けるべき時間なのか、という問いを立てています。
よくある質問
Q. ボイドタイムは、どのくらいの頻度で起きますか?
A. 今の定義では、月が星座を移るたびに起きます。一つの星座を通るのは平均で約2.28日なので、年に約160回です(計算)。
Q. ボイドタイムは、何時間くらい続きますか?
A. 決まっていません。月がその星座の中で最後の主な角度をとる位置で変わり、星座に入ってすぐなら長く、星座を出る直前なら短くなります。
Q. ボイドタイムに契約してはいけないのですか?
A. 1647年のリリーは、問いに答える占いの注意として、月がボイドだと物事がはかどらないと書きましたが、契約を名指しした一覧はありません。効果を確かめた研究も見つかっていないので、契約は相手の都合と中身で決めてください。
Q. ボイドの考え方は、いつからありますか?
A. 似た言葉は古代ギリシャにあり、2世紀のプトレマイオスにも出てきますが、定義は今と違いました。星座の中で見る今の形は9世紀ごろからとされます。日本では1985年に、題に「ボイド」を入れた本が2冊出ています。
Q. ボイドタイムの時刻は、どこで分かりますか?
A. 占いの手帳や本に載っているものがあります。たとえば松村潔さんの『ムーン・ダイアリー’27』は、版元の紹介によると、ボイドタイムの入りと明けの時刻を載せています。


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