『引き寄せの法則』は、アメリカのエスター・ヒックスとジェリー・ヒックスの夫妻が書いた本です。「エイブラハム」と呼ぶ存在の言葉を伝える、という形で、考えや気持ちが現実を引き寄せる、という考え方を説いています。日本でも三つの訳が出ていて、長く読まれてきました。
ここでは、どんな本なのか、三つの日本語訳のちがい、ヒックス夫妻の経歴、「引き寄せの法則」という言葉の出どころ、そして、前向きに思い描くことについて研究で分かっていることを順にまとめます。最後に、研究の結果をふまえた本の生かし方も書きます。
どんな本か

原書は、英語でそのまま「引き寄せの法則」という題の本で、2006年にアメリカの出版社ヘイハウスから出ました。2022年の新訳の目次は、「エイブラハムとの出会い」「引き寄せの法則」「意図的な創造の方法論」「ありのまま受け入れること」「場面ごとの意図確認」の五つの部に分かれています。
中心にあるのは、自分が注意を向けたものが、自分の経験として引き寄せられる、という考え方です。本は、その考え方を日々の場面にどう当てはめるかを、書名のとおり、エイブラハムとの対話の形で説明しています。なお、こうした考え方は、科学的に確かめられたものではありません。
日本語の訳は三つある
- 吉田利子訳(2007年)
ソフトバンククリエイティブから2007年10月に出た、最初の日本語訳です。 - 『超訳』(2017年)
奥平亜美衣さんが、原書を分かりやすく言い換えて訳したものです。 - 『新訳』(2022年)
本田健さんの訳で、SBクリエイティブから2022年4月に出ました。書名は『新訳 引き寄せの法則 エイブラハムとの対話』。電子書籍版もあります。
日本語では、エスター・ヒックスとジェリー・ヒックスのほかの本も、題に「引き寄せの法則」を付けて出ています。2004年の原書(題は「求めれば、与えられる」という意味)は、『新訳 願えば、かなうエイブラハムの教え』(ダイヤモンド社、2016年)として出ていて、ほかに、お金や人間関係をテーマにした本もあります。名前の似た本が多いので、読みたい本の原書の題と訳者を確かめてから選ぶと迷いません。
「アブラハム」と書いている紹介もありますが、日本語訳では「エイブラハム」と書かれています。
ヒックス夫妻と「エイブラハム」
二人が出会ったのは1976年です。当時ジェリー・ヒックスは、アムウェイの販売員(ディストリビューター)として成功していて、エスターは、ジェリーが開いたアムウェイの説明会に参加していました。「エスター・ヒックス アムウェイ」と調べる人がいるのは、この出会いのためです。
エスターが「エイブラハム」の言葉を伝え始めたのは、1985年のことです。アメリカの作家ジェーン・ロバーツが「セス」という存在の言葉を伝えたとする本を読んだことが、きっかけの一つとされています。夫妻はエイブラハムを、目に見えない教師たちの集まり、と説明しています。1986年からは、親しい仕事仲間にこの話を打ち明け始め、のちに本などを通して広めていきました。ジェリー・ヒックスは、2011年11月に亡くなっています。
2006年の映画『ザ・シークレット』では、エスターは最初の版でナレーターを務めましたが、のちの版では外れています。『ザ・シークレット』に出てくる、と書く紹介もありますが、それは最初の版の話です。
「引き寄せの法則」という言葉の出どころ
「引き寄せの法則」という言葉は、ヒックス夫妻が作ったものではありません。19世紀のアメリカで広まった「ニューソート(新思考)」という運動の中で使われ、1906年には、ウィリアム・ウォーカー・アトキンソンが、題に「引き寄せの法則」を入れた本を出しています。
百科事典では、引き寄せの法則は、実証的な根拠のない考え方とされています。読むときは、心の持ち方についての一つの考え方として受け取るのが無理のない読み方です。
前向きに思い描くことについて、研究で分かっていること
望む未来を思い描くことについては、心理学者のガブリエル・エッティンゲンたちが長く研究しています。主な結果は次のとおりです。
- 空想が楽しいほど、行動が減ることがある
望む未来を楽しく空想していた人ほど、その後の努力や成果が低かった、という結果が、就職活動、試験、手術後の回復などで報告されています(2002年)。一方で、「実現しそうだ」という見込みを持っている人は、努力も成果も高い傾向がありました。 - 空想と気分の落ち込み
前向きな空想が多い人ほど、数か月後に気分の落ち込みが多かった、という研究もあります(2016年)。 - 障害を思い描くと、続けられる
願いと、それを妨げる障害を並べて思い描き、障害にどう対処するかの計画を立てる方法を子どもに教えたところ、成績や出席がよくなった、という研究があります。 - 信じすぎることのリスク
オーストラリアのクイーンズランド大学の研究では、引き寄せの考え方を強く信じる人ほど、危険の大きい投資を好み、破産の経験とも結び付いていました。
どれも、「すでにかなったかのように感じる」だけでは、かえって行動が止まることがある、という結果です。本に書かれた前向きな気持ちを持つことと、現実の行動を積み上げることは、別々に考えたほうがよさそうです。
研究をふまえた、本の生かし方
エッティンゲンたちは、願い・望む結果・障害・計画の四つを順に考える方法を、四つの頭文字から「ウープ」と名付けて広めています。『引き寄せの法則』を読んで前向きな気持ちになったら、その気持ちを、次の四つに書き分けてみてください。
- 願い: 本を読んで、いちばんかなえたいと思ったことを一つ
- 望む結果: それがかなったら、どんな状態になっているか
- 障害: それを妨げている、自分の中にある一番の原因は何か
- 計画: その障害が出てきたら、何をするか(「もし〜なら、〜する」の形で)
本の「望むことに意識を向ける」は一つめと二つめに、研究の「障害を見つめる」は三つめと四つめに当たります。両方を組み合わせると、前向きな気持ちを、行動につなげやすくなります。紙に書くのは5分もあれば十分なので、本を読み返すたびに書き直してみてください。
例として、2022年に出た新訳(エスター・ヒックス、ジェリー・ヒックス著、本田健訳、SBクリエイティブ)の販売ページです。電子書籍版もあります。
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よくある質問
Q. エスター・ヒックスとアムウェイには、どんな関係がありますか?
A. 1976年に夫妻が出会ったとき、ジェリー・ヒックスはアムウェイの販売員で、エスターは彼のアムウェイの説明会に参加していました。エイブラハムの言葉を伝える活動を始めたのは、その後の1985年です。
Q. 日本語の訳は、どれを読めばいいですか?
A. 最初の訳は吉田利子訳(2007年)、分かりやすく言い換えた『超訳』(2017年)、いちばん新しい本田健訳の『新訳』(2022年)があります。読みやすさで選んでかまいません。
Q. 引き寄せの法則は、科学的に証明されていますか?
A. されていません。百科事典では、実証的な根拠のない考え方とされています。研究では、望む未来を楽しく空想するだけだと、かえって努力が減ることがあると報告されています。
Q. エイブラハムとは何ですか?
A. エスター・ヒックスが言葉を伝えているとする存在で、夫妻は、目に見えない教師たちの集まり、と説明しています。
Q. 映画『ザ・シークレット』と同じ内容ですか?
A. 同じ「引き寄せの法則」を扱っていて、エスター・ヒックスは2006年の映画の最初の版でナレーターを務めました。ただ、のちの版では外れていて、映画と本は別の作品です。



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