夏になると、店先に「土用の丑の日」の文字が並びます。鰻を食べる日として知られていますが、土用とは何なのか、なぜ丑の日なのかと聞かれると、答えに迷うかもしれません。季節の節目の日として、スピリチュアルな意味を探す人もいるでしょう。
ここでは、国立天文台の暦と辞典、図書館が調べ物に答えた記録をもとに、土用の決まり方、2026年と2027年の土用の丑の日、鰻と「う」のつく食べ物の言い伝え、土をいじらない日と「間日」の記録を確かめました。国立天文台が発表した日付と、暦から数えた日付は分けて書き、数えたものには(計算)と付けます。
土用は、太陽の位置で決まる

土用は、立春・立夏・立秋・立冬の前の約18日間をいう暦の言葉で、二十四節気のほかに季節の目安を示す「雑節」の一つです。国立天文台によると、今は、太陽が空の通り道(黄道)のどこにあるかを表す角度(黄経)で決めていて、太陽の黄経が297度で冬の土用、27度で春の土用、117度で夏の土用、207度で秋の土用に入ります。どれも、立春・立夏・立秋・立冬のちょうど18度手前です。
もとの記事の題は「暦と月の流れで読む」となっていて、本文でも、土用の丑の日が新月と満月のどちらに近いかで意味が変わる、と書いていました。けれども、土用は太陽の位置で決まるもので、月の満ち欠けとは関係がありません。国立天文台によると、太陽の黄経で土用を決めるようになったのは明治2年の暦からです。
期間も、ちょうど18日とは限りません。土用は入りの日から、立春・立夏・立秋・立冬の前日までで、国立天文台は、期間は17日、18日、19日のどれかになると説明しています。暦にはふつう土用の「入り」だけが書かれますが、古い暦には土用の終わりを記したものもあるそうです。
4回の土用は、どれも「土」
土用は、古代中国の五行説から生まれた区切りです。五行説では、万物を木・火・土・金・水の5つで考えます。これを四季に当てはめようとすると、春に木、夏に火、秋に金、冬に水を当てたところで、土が余ってしまいます。そこで、それぞれの季節の終わりの5分の1ずつを集めて土に当てたのが土用です。
国立天文台は、この割り振りを数字で説明しています。昔の平気法という暦の決め方で、没日(もつにち)を数えない場合は1年が360日になり、各季節は90日、その5分の1は18日です。土用の合計は72日、残りの季節もそれぞれ72日となって、5つが平等に分けられます。今の太陽の角度で決める方法でも、1年の360度を4で割った90度の5分の1が18度で、同じ考え方です。
もとの記事は、よくある質問の答えで、土用は年4回あり、それぞれ木・火・土・金・水の五行のエネルギーと関わる、と書いていました。けれども、国立天文台も辞典も、土用は余った「土」を4つの季節の終わりに分けたものだと説明しています。春・夏・秋・冬の4回の土用は、どれも「土」です。もとの記事は本文で、土用は土の気が支配する時間だとも書いていて、よくある質問の答えと食い違っていました。
ブリタニカ国際大百科事典は、五行説で土は中央にあって四季の主とされ、代表する季節がないので、四季の土用に当てた、と説明しています。日本大百科全書は、土用という言葉は「土曜用事」を略したもの、としています。精選版日本国語大辞典が挙げる用例は、1040年の貴族の日記『春記』で、平安時代の記録にすでに土用が出てきます。もとの記事は、土用を西洋占星術でいう星座の境目(カスプ)に近いと説明していましたが、土用は東アジアの五行説の区切りで、西洋占星術とは別の考え方です。
2026年と2027年の土用の丑の日
土用の丑の日は、土用の期間にある、十二支が丑の日です。十二支は日にも順に割り振られていて、12日で一回りします。土用は17〜19日あるので、丑の日が1回の年と2回の年があり、2回目を「二の丑」と呼びます。今はふつう、夏の土用の丑の日を指します。
国立天文台の暦要項にある土用の入りと、立春・立夏・立秋・立冬の日付から期間を出し、その中の丑の日を数えると次のようになります。期間は国立天文台の日付から、丑の日は計算です。
- 2026年 夏
土用は7月20日から8月6日まで(18日)。丑の日は7月26日だけで、二の丑はありません(計算)。 - 2026年 秋
土用は10月20日から11月6日まで(18日)。丑の日は10月30日(計算)。 - 2027年 冬
土用は1月17日から2月3日まで(18日)。丑の日は1月22日と2月3日(計算)。 - 2027年 春
土用は4月17日から5月5日まで(19日)。丑の日は4月28日(計算)。 - 2027年 夏
土用は7月20日から8月7日まで(19日)。丑の日は7月21日、二の丑は8月2日(計算)。 - 2027年 秋
土用は10月21日から11月7日まで(18日)。丑の日は10月25日と11月6日(計算)。
2026年は8月7日も丑の日ですが、この日は立秋の当日で、土用はその前日の8月6日に明けています。そのため、2026年の夏の土用の丑の日は1回だけです。
日の十二支は、60日で一回りする干支の順番から数えました。同じ数え方で、図書館の記録に残る2013年の暦の「土用の丑」(7月22日)と「土用二の丑」(8月3日)、環境省のお知らせにある2018年の土用の丑の日(7月20日と8月1日)が出ることを確かめています。
鰻を食べる習慣は、いつからか
夏に鰻を食べるという話の古い例は、奈良時代の『万葉集』巻16にあります。大伴家持が、石麻呂という人に、夏やせによいというから鰻をとって食べなさい、と呼びかけた歌です。辞典によると、石麻呂は吉田老という人の通り名で、たくさん食べてもひどくやせていたので、家持にからかわれてこの歌を詠まれました。薬として勧めた記録というより、やせた知人をからかう歌です。精選版日本国語大辞典は、この歌から、古くから鰻が栄養のある食べ物とされていたことが分かる、としています。
鰻の料理では、室町時代にすしや蒲焼が作られるようになりました。土用の丑の日と鰻を結びつけた記録は、江戸時代のものです。精選版日本国語大辞典が引く随筆『明和誌』(1822年ごろ)は、近ごろは寒中の丑の日に紅をつけ、土用の丑の日に鰻を食べることを家ごとにするようになり、それは安永・天明のころから始まった、と書いています。安永・天明は、およそ1772年から1789年です。
世界大百科事典は、土用の丑の日に鰻を食べる風習は鰻屋の商売の工夫から出たものだが、暑いさなかの栄養補給としては理にかなっていて、1820年代には行われていた、と説明しています。
なぜ丑の日なのかは、はっきりしません。世界大百科事典は、なぜ丑の日が選ばれたかは分かっていない、としています。もとの記事は、丑は土の気が強い干支で、大地のエネルギーが特に凝縮される日だと書いていましたが、そうした説明は辞典では確かめられませんでした。鰻を食べて精力をつける習慣を「土の気の補充」と見る説明も、辞典にはありません。
平賀源内の話は、出どころがはっきりしない
土用の丑の日の鰻といえば、江戸時代の学者の平賀源内が、売れない鰻屋に頼まれて「本日土用丑の日」と書いた紙を店先に貼らせたところ、大評判になった、という話がよく知られています。
けれども、この話を確かな記録として示した資料は見つかりませんでした。図書館の調べ物の記録によると、遠山英志さんの『丑鰻考』(1988年)は、起こりを3つの「俗説」として紹介しています。源内の貼り紙の話、文政年間に江戸の鰻屋が大名の注文で土用の子・丑・寅の3日に蒲焼を焼いて蔵にしまったところ、丑の日に焼いた分だけ色も味も変わらなかったという話、そして、庶民が暑さのこたえる丑の日に鰻を食べて夏負けしないよう願ったのが長い間に定着したという話です。
松井魁さんの『うなぎの本』(1977年)は、定説はないが、太田蜀山人か平賀源内が宣伝のために商売と結びつけ、習慣になったと考えられる、としています。暦の事典にも、源内が鰻屋の看板に書いたことに由来する「という」と、伝え聞きの形で書かれています。源内の話は『明和誌』に収められているとする辞典もありますが、精選版日本国語大辞典が引く『明和誌』の文には、源内の名は出てきません。源内が始めたと言い切れる資料は、今のところ見つかっていません。
「う」のつく食べ物と、土用のほかの習わし
土用の丑の日に「う」のつくものを食べるとよい、という言い伝えは辞典に載っています。世界大百科事典は、夏負けを防ぐ言い伝えとして、ウの字のつくウナギ、ウリ、牛の肉や、土用餅を食べる風習を挙げ、頭に「う」のつくウリや梅干しを食べるとよいという所もある、としています。百科事典マイペディアや日本大百科全書には、うどんも出てきます。
「う」のつかない食べ物もあります。精選版日本国語大辞典は、夏の土用に、にんにくやあんころ餅、鰻を食べる風習があるとし、日本大百科全書はどじょう汁も挙げています。静岡市には、ユリの根を入れた土用粥を食べる所もあったそうです。
もとの記事は、「う」のつく食べ物を言霊と食の力を組み合わせた開運の儀式と説明し、ウニや、瓜の例としてきゅうりやズッキーニを挙げていました。辞典が挙げるのはウナギ・ウリ・梅干し・うどん・牛の肉などで、ウニは見当たりません。開運の儀式という説明の出典も見つかりませんでした。辞典の説明は、どれも夏負けや夏やせを防ぐための言い伝えです。
食べ物のほかにも、夏の土用にはさまざまな習わしがありました。
- 土用干し … 暑いさかりに、衣服や書物に風を通して虫干しをする
- 丑湯 … 土用の丑の日に風呂や薬湯に入る。辞典は、病気をしないまじないと説明している。丑の日の風呂は千日の入浴に値する、という所もあった
- 灸と薬草 … 土用の灸はよく効く、夏の土用にとった薬草は特に効き目がある、と言われてきた
- 牛を休ませる … 牛に水浴びをさせて休ませる風が各地にあり、中国地方には牛を海に入れる「牛の祇園」があった
- 土用三郎 … 土用に入って3日目の天気で、その年の作物の出来を占った
- 種まきを避ける … 丑の日にダイコンの種まきを忌む所があった
- 寒中の丑の日 … 冬の寒の丑の日に買った紅は、口の荒れを防ぐといわれた
もとの記事は、土用の期間中は多くの人が体が重い、気持ちが不安定、と感じやすいと言われる、と書いていましたが、誰がそう感じたのかを示す資料はありませんでした。辞典に残る習わしは、暑さに負けないよう、食べ物や風呂に気を配る養生の工夫です。世界大百科事典も、夏負けしやすいころに食べ物に気を配り、湯に入って養生することは必要だったのだろう、としています。
土をいじらない言い伝えと「間日」
土用でよく知られた言い伝えが、土を動かしてはいけない、というものです。精選版日本国語大辞典は、土用の間に土を犯すことは忌むべきこととされ、葬送などもこの期間は延期された、と説明しています。先に挙げた1040年の『春記』の用例も、土用なので移せなかった、という記事です。熊本県の水俣市のあたりでは、土用に土いじりを忌む、と世界大百科事典にあります。
背景にあるのが、陰陽道の土の神「土公神(どこうじん、どくじん)」です。辞典によると、土公神は春は竈、夏は門、秋は井戸、冬は庭にいて、その季節にその場所を動かすと祟りがあるとされました。平安時代からは陰陽師が土地を鎮める土公祭を行い、今は竈の神としての性格が強いものの、四季の土用には土を動かすな、という土地の神の面も残っている、と世界大百科事典は説明しています。
中国地方には、土公神の由来を語る祭文も伝わっています。世界大百科事典によると、天地を作った盤古大王が4人の王子に四季と四方を分け与えたが、大王の死後に生まれた五郎の王子が4人と争い、四季から18日ずつの土用を割いて与え、中央の神とすることで決着した、という話で、神楽の中でも舞われてきました。五行説の土用を、物語の形で語ったものといえます。
土用の間でも土を動かしてよいとされる日が「間日(まび)」です。古い記録では、1485年の公家の日記『十輪院内府記』に、土用の間日なので垣を直した、という記事があります。日記は、間日のことは暦の専門家(暦道)は用いないが、そうした説がないわけではない、と書き、急ぎの事情があったので用いた、と続けています。15世紀には間日の考え方があったものの、暦を作る側は採っていなかったことが分かります。
今の暦の解説記事では、間日は季節ごとに決まった十二支の日とされ、たとえば春の土用は巳・午・酉の日と紹介されています。ただ、季節ごとの十二支の決まりは辞典では確かめられませんでした。夏の間日を卯・辰・申の日として数えると、2026年は7月21日・28日・29日・8月2日で、一般の記事が2026年の夏の間日として挙げる日付と同じになります。同じ数え方で、2027年は7月23日・24日・28日・8月4日・5日です(計算)。
民間企業が2026年6月に20歳から79歳の600人に行ったインターネット調査では、土用の期間中にするとよいとされることとして「『う』の付く食べ物を食べる」を選んだ人が62.0%だった一方、「土用の間日に土いじりや工事を行う」は3.2%でした。土用に避けたほうがよいとされることを「知らない・わからない」と答えた人は55.0%で、鰻の習慣に比べると、土の言い伝えはあまり知られていないようです。
ニホンウナギは、絶滅のおそれがある種
土用の丑の日に食べられる鰻のうち、日本の川や海にいるニホンウナギは、絶滅のおそれがある種に指定されています。環境省は2013年2月のレッドリストの見直しで、それまで情報が足りないとしていたニホンウナギを、絶滅のおそれがある種の3段階のうち真ん中の区分に入れました。天然のウナギの漁獲量から、3世代(12〜45年)で72〜92%減ったと見積もったためで、2020年の見直しでも同じ区分のままです。
国際自然保護連合も、2014年6月にニホンウナギを同じ真ん中の区分として、絶滅のおそれのある種の一覧に載せました。2025年には、ニホンウナギを含むウナギの仲間すべてを国際取引の規制の対象に加える提案が、ワシントン条約の締約国会議に出され、否決されました。国内では、2025年12月から、全長13センチ以下のうなぎの稚魚を輸出するときに、農林水産大臣の証明書が必要になっています。
辞典が挙げる「う」の食べ物には、ウリや梅干し、うどんもあります。言い伝えの中身を知っていれば、鰻だけにこだわらず、夏の養生の言い伝えを楽しむこともできます。
暦の決まりと、言い伝えを分けて読む
確かめられたことを、暦の決まりと言い伝えに分けると次のようになります。
- 暦の決まり … 土用は太陽の位置で決まり、立春・立夏・立秋・立冬の前の17〜19日間。4回とも五行の「土」に当たる
- 日付 … 2027年の夏の土用の丑の日は7月21日と8月2日(計算)。2026年の夏は7月26日の1回だけだった(計算)
- 食べ物 … 鰻や「う」の食べ物は、夏負けや夏やせを防ぐ言い伝え。土用の丑の日の鰻は江戸時代の記録から。平賀源内の話は俗説として紹介されている
- 禁忌 … 土用に土を動かさない言い伝えは平安時代の記録にもあり、土公神の信仰と結びつく。間日は15世紀の日記に出てくるが、季節ごとの十二支の決まりは辞典では確かめられない
もとの記事は、素足で土の上に立つ、家の四隅に塩を置く、セージなどを焚く、といった土用の過ごし方を勧めていましたが、どれも出典は見つかりませんでした。土用のスピリチュアルな意味として確かめられたのは、五行説で「土」に当てられた季節の変わり目であることと、その時期に土の神を気づかい、暑さに負けないよう食べ物と風呂に気を配ってきた言い伝えでした。
暦の言葉を引いて確かめたいときは、岡田芳朗さんと阿久根末忠さんが編著した『現代こよみ読み解き事典』(柏書房、1993年)があります。図書館の調べ物の記録によると、「土用」の項目で、土用が年に4回あることと夏の土用の時期、土用の丑の日の鰻の習慣についての伝えを説明しています。
よくある質問
Q. 2027年の土用の丑の日はいつですか?
A. 夏の土用(7月20日〜8月7日)の丑の日は、7月21日と、二の丑の8月2日です(計算)。2026年の夏は7月26日の1回だけでした(計算)。
Q. 土用は年に何回ありますか?
A. 立春・立夏・立秋・立冬の前の年4回で、どれも五行の「土」に当たります。期間は17〜19日で、今はふつう夏の土用を指します。
Q. 鰻を食べる習慣は平賀源内が始めたのですか?
A. 源内の貼り紙の話は、研究書や図書館の記録では俗説として紹介され、定説はありません。江戸時代の随筆『明和誌』には、安永・天明のころから始まったとあります。
Q. 土用の間は土いじりをしてはいけないのですか?
A. 土を動かすことを忌む言い伝えは平安時代の記録にもあり、土の神の土公神の信仰と結びついています。間日は土を動かしてよい日とされますが、季節ごとの十二支の決まりは辞典では確かめられませんでした。
Q. ニホンウナギは絶滅危惧種ですか?
A. 環境省(2013年)と国際自然保護連合(2014年)が、絶滅のおそれがある種の3段階のうち真ん中の区分にしています。環境省の2020年の見直しでも同じ区分です。


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