最近なんだか落ち着かない、好きだったことに興味が持てない、偶然の一致が続く。人生が大きく変わる前ぶれではないか、と感じることがあります。
ここでは、「前兆」という言葉の本来の意味を辞典で確かめ、前兆とされる心や体の変化について、国の資料が示す受診の目安を紹介します。昔の神託や夢占いの本の話、人生の転機を心理学ではどう説明しているか、転機についての研究もまとめます。
「前兆」は、信じられている「しるし」

辞典によると、前兆は、何かが起こる前に現れるしるし、まえぶれのことです。日本大百科全書は、未来についての情報を与えると信じられている出来事で、予兆ともいい、自然の現象や動物の行動などがふだんと違う形で現れたときに前兆とみなされる、と説明しています。ブリタニカ国際大百科事典は、まったく根拠のない俗信が多いが、長年の自然の観察や人生の経験にもとづくものもある、としています。
もとの記事は、前兆を、宇宙や高次の存在が「もうすぐ変化が起きますよ」と知らせているメッセージとしていました。けれども、だれがそのしるしを送っているのかは信仰の話で、確かめられたことではありません。
落ち込みや不眠は、前兆より先に心と体の点検を
もとの記事は前兆の1番目に、理由のわからない感情の波、突然涙が出る、今まで好きだったことへの関心が薄れる、落ち着かず焦る、を挙げ、魂が古いパターンを手放す準備をしているサインとしていました。よくある質問では、原因のわからない不安や眠れない夜も変化の前兆とし、前兆は数か月続くこともあるので、焦らず受け取るように、と書いていました。
厚生労働省のうつ病の説明では、悲しく憂うつな気分が一日中続く、これまで好きだったことに興味がわかない・何をしても楽しくない、食欲の変化、眠れない・寝すぎる、イライラ、疲れやすさ、自分に価値がないと思う、集中できない・決められない、死にたいと思う、の9つのうち、初めの2つのどちらかを含む5つ以上が2週間以上続いていたら、専門家に相談するよう勧めています。国立精神・神経医療研究センターのサイトは、周りが気づく変化として「涙もろくなった」「落ち着かない」を、本人の症状として焦る気持ちや、眠れない・寝すぎるを挙げ、早めに専門家に相談することが大切だとしています。もとの記事が前兆とした変化の多くは、これらと重なります。
眠れないことと日中の不調が週に3日以上あり、3か月以上続くと、慢性の不眠症と診断されます。厚生労働省のe-ヘルスネットは、不眠に加えて気分の落ち込みや意欲の低下があるなら、早めに専門医を受診するよう勧めています。3か月待てばよい、という意味ではありません。
気分の落ち込みや、好きだったことを楽しめない状態が2週間以上続くとき、眠れない日に気分の落ち込みが重なるときは、精神科や心療内科、かかりつけの医師、保健所や精神保健福祉センターに相談してください。電話では、働く人のための「こころの耳」(0120-565-455、平日17〜22時・土日10〜16時)や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)があります。死にたい気持ちがあるときは、#いのちSOS(0120-061-338)やよりそいホットライン(0120-279-338)にも電話できます。
昔の神託と、夢占いの本
もとの記事は、古代ギリシャでは、デルポイの神託をはじめ、神々が人間に予兆を送るという信仰が根付いていた、と書いていました。辞典によると、ギリシアには250以上の神託所があり、デルフォイでは巫女ピュテイアが神がかりして質問した人に答え、その答えは詩の形をとることが多く、政治や植民地の方向づけにまで及びました。神の意志が求められたのは、人の日常的な判断を超える難問に限られたといいます。ギリシアでは、霊媒を通じて神託を受ける方法が、予兆による占いに取って代わって主流になり、ローマ人はおもに鳥の飛び方や動物の内臓で占ったとされます。神託は、人が問いを持って神託所へ行くもので、神が予兆を送ってくるのを待つものとは違います。
もとの記事は、江戸時代には夢占いの本が数多く出版され、庶民のあいだに根付いていた、とも書いていました。国立国会図書館などの目録で確かめられたのは、1795年の序がある京都の本屋の『夢合早占大成』や、1814年の『安部清明夢合延寿袋大成』などで、1994年に復刻された『江戸時代女性文庫』の一巻には、夢占いの本が5種収められています。ただ、どれほど多く出版され、どこまで広まっていたかを示す資料は見つかりませんでした。
ユングのシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)は1930年の講演から使われた言葉ですが、これが今の「前兆のサイン」の考え方に大きな影響を与えた、という出典は見つかりませんでした。ニューエイジは1970年代に広まった運動です。
人生の転機を、3つの段階で説明する考え方
人生の転機について書いたウィリアム・ブリッジズは、1980年の『トランジション』(日本語訳は1994年、新装改訂版は2014年)で、「変化」は状況が変わること、「トランジション」は心の中で自分の方向を定め直すことだと区別しています。そして転機を、「終わり」「ニュートラルゾーン」「始まり」の3つで説明します。まず何かが終わり、次の始まりまでのニュートラルゾーンは、これまでの自分が失われ、先も見えない苦しい時期だといいます。
もとの記事が前兆として挙げた、落ち着かなさや、好きだったものへの関心が薄れる感じは、この考え方に沿えば、変化の前ぶれというより、何かが終わったあとの心の動きとして読むこともできます。ただし、これは著者の経験から生まれた考え方で、調査で確かめたものではありません。結婚や離婚、転職、引っ越し、病気などの転機に向き合う力を、状況、自分自身、周りの支え、対処の方法の4つで整理する考え方(シュロスバーグの4S)もあり、厚生労働省の、病気の治療と仕事の両立を支える資料でも紹介されています。
人は、これから変わる量を小さく見積もる
18〜68歳の1万9千人あまりを調べた2013年の研究では、どの年代の人も、この10年で性格や価値観、好みが大きく変わったと答えながら、これからの10年はあまり変わらないだろうと予測していました。研究者はこれを「歴史の終わり錯覚」と呼んでいます。人生は、特別なしるしがなくても、少しずつ変わっていくものなのかもしれません。
結婚や離婚、死別、失業、引っ越しなどの出来事と幸福感についての188本の論文をまとめた2012年の研究では、出来事が幸福感に与える影響は出来事ごとに大きく違い、その違いは、一般に望ましいとされる出来事かどうかでは説明できませんでした。人生の最高の場面や最低の場面、転機を語ってもらった2001年の研究では、悪い出来事が良い方向へ転じた、という語りが多い人ほど、心の幸福感が高い傾向がありました(相関の研究です)。転機の意味は、あとから自分の物語として見えてくることも多いのです。
前兆を探したくなったら
もとの記事は、人間関係が入れ替わることも前兆としていました。進学や就職で環境が変わった若者を追った研究では、最初にいちばん親しい層にいた友人のうち、残っていたのは約半分でした。環境が変われば、人間関係が変わるのは自然なことです。直感についても、当てになるのは、規則性があり、結果を確かめながら学ぶ機会がある場面に限られる、とされます。
もとの記事は、毎日5〜10分の瞑想で「効果を感じる方が多い」と書いていました。研究をまとめると、瞑想には不安や気分の落ち込み、痛みを和らげる中程度の証拠がある一方、有害なことが起きた割合は平均8.3%(研究の種類によって3.7%から33.2%)でした。前兆を探したくなったら、まず眠りや食事、気分を点検し、大きな決断は急がず、信頼できる人と話しながら決めていくのが安心です。
例として、直感をテーマにした上地一美さんの『なぜかうまくいく人のすごい直感力』(学研プラス、2022年)の販売ページです。人生を選択の連続と見て、決断のときの直感のつかみ方を紹介する本で、前兆や転機の見分け方を説く本ではありません。2015年の本を改題・再編したものです。
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よくある質問
Q. 人生が変わる前兆はありますか?
A. 前兆を確かめた研究は見つかりませんでした。辞典では、前兆は未来を知らせると「信じられている」しるしで、根拠のない俗信も多いとされています。
Q. 好きだったことに興味が持てないのは前兆ですか?
A. うつ病の症状とも重なります。気分の落ち込みや興味の低下を含む症状が2週間以上続くときは、専門家に相談してください。
Q. 眠れない夜が続くのは前兆ですか?
A. 週に3日以上の不眠が3か月以上続くと慢性の不眠症とされ、気分の落ち込みを伴うなら早めの受診が勧められています。
Q. 人生の転機には、どんな心の動きがありますか?
A. ブリッジズは、「終わり」「ニュートラルゾーン」「始まり」の3つで説明しています。調査ではなく、著者の経験から生まれた考え方です。
Q. 前兆を感じたら、どう行動すればいいですか?
A. まず眠りや食事、気分を点検してください。大きな決断は急がず、信頼できる人と話しながら決めていくのが安心です。



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