神棚の榊の葉が黄ばんできた、榊立ての水がにごってきた。榊は毎月1日と15日に替えるもの、と聞いたことはあっても、本当にその日でなければいけないのか、古い榊はどう処分すればいいのか、いざとなると迷います。
ここでは、神社本庁と東京都神社庁、宮城県神社庁の説明で、榊を替える日に決まりがあるのかを確かめました。そのうえで、1日と15日という日の由来を辞典と国立天文台の暦でたどり、サカキとヒサカキの違い、「榊」という字の成り立ち、古い榊を手放すときの方法をまとめます。
神社本庁が書いているのは「毎日水を取り替える」こと

神社本庁は、神棚のまつり方の案内で、神棚の両側に榊を供えると説明しています。榊は常に緑を保つ常緑樹で、古くから神さまの前に供えられてきたもので、毎日水を取り替えてみずみずしさを保つように、と書いています。神社本庁の神棚の小冊子も、榊は生花店などで売られている、としたうえで、同じように毎日の水の取り替えを勧めています。どちらにも、榊そのものを何日ごとに替えるかは書かれていません。
東京都神社庁の説明では、毎朝、米・塩・水を供えたあとに榊立ての水を取り替え、明かりをともしてお祭りを始めます。榊立ては、神棚の左右に置くために一対用意するものです。宮城県神社庁も、神殿の両側に繁栄の象徴である榊を活け、水は毎日取り替える、としています。
もとの記事は、毎月1日と15日に交換するのが基本だ、と書いていました。けれども、確かめた三つの説明は、どれも交換の日を定めていません。決まっているのは毎日の水替えで、榊そのものは、葉がしおれたり色が変わったりしたときに替えればよい、ということになります。もとの記事が挙げていた、榊立ての水に木炭を入れる、切り口を斜めに切る、といった長持ちの工夫も、神社の説明には見当たりませんでした。
1日と15日は、神棚を丁重にまつる日
では、1日と15日という日はどこから来たのでしょうか。東京都神社庁は、ふだんのお供えは米と塩と水だが、毎月1日や15日、お神札の神社の例祭日、誕生日などの家のお祝いのときには、酒や魚、野菜や果物なども供えて丁重にお祭りをする、と説明しています。1日と15日は、榊を替える日というより、お供えを増やしてていねいにまつる日です。この日の意味は、盛り塩の交換の記事でも紹介しています。
神社の祭りにも、月の節目に行うものがあります。辞典によると、月次祭(つきなみのまつり)は、もとは朝廷の神祇官で行われた祭りです。名前は月ごとの祭りを表しますが、律令の決まりでは6月と12月の年2回とされ、朝廷が幣を奉る大社304座の神々に供え物が届けられました。伊勢の神宮でも月次祭は6月と12月に行われ、10月の神嘗祭と合わせて三節祭と呼ばれる大切な祭りです。
一般の神社では、毎月はじめの1日と、月の中ほどの15日などに行う祭りを月次祭と呼んでいます。ただし辞典は、その日は必ずしも一定でない、と添えています。もとの記事は、月の1日と15日は月次祭が行われる日だ、と書いていましたが、もとは年2回の朝廷の祭りだったこと、今も日は神社によって違うことが抜けていました。
1日と15日に榊を新しくする習わしも、こうした月の節目に合わせたものと考えられます。ただ、そう定めた神社本庁や神社庁の説明は見つかりませんでした。習わしとして続けるのはかまいませんが、決まりではありません。
「1日は新月、15日は満月」は旧暦の話
もとの記事は、1日は新月に近い始まりの日、15日は満月に近い満ちる日で、月の満ち欠けに合わせて榊を替える慣わしだ、と説明していました。これは、今の暦ではなく旧暦の仕組みです。
辞典によると、明治5年(1872年)まで使われていた旧暦(太陰太陽暦)は、月の満ち欠けを主な基準にした暦で、朔(新月)を含む日を各月の1日とし、ひと月を29日か30日としていました。旧暦の15日の夜は十五夜と呼ばれ、辞典は満月の夜の意味も載せています。1日が新月、15日ごろが満月という結びつきは、この暦のものでした。
今の暦(太陽暦)では、日付と月の満ち欠けは結びついていません。国立天文台が発表している2026年の暦で、新月と満月の日を見てみます。
- 1〜5月
満月は1月3日・2月2日・3月3日・4月2日・5月2日で、どれも月の2日か3日。新月は1月19日・2月17日・3月19日・4月17日・5月17日 - 6〜10月
新月は6月15日・7月14日・8月13日・9月11日・10月11日。満月は6月30日・7月29日・8月28日・9月27日・10月26日(5月は31日にも満月) - 11月と12月
下弦(半月)は11月2日と12月1日。新月は11月9日と12月9日、満月は11月24日と12月24日
2026年の1月から5月は、1日の翌日か翌々日が満月で、15日は新月の2〜4日前でした。6月は、1日の前の日の5月31日が満月で、15日がちょうど新月です。1月から6月は、1日のころに満月、15日かその数日あとに新月が来ていて、もとの記事の説明とちょうど逆です。1日と15日に榊を替える習わしを続けるのはかまいませんが、その理由を新月と満月に求めると、今の暦の日付とは合わないのです。
サカキとヒサカキ
神社本庁によると、神社で祈願するときに神さまに捧げる玉串は、みずみずしい榊の枝に木綿(ゆう)や紙垂(しで)を付けたものです。祖先は遠い昔から、榊に神々を招き、神前に榊を供えてお祭りを行ってきた、と神社本庁は説明しています。
植物としてのサカキは、サカキ科(以前の分類ではツバキ科)の常緑の木です。辞典によると、葉はつやのある細長い楕円形で縁はなめらか、長さ7〜12センチほどで、枝の左右に平らに並びます。6〜7月に白い花が咲いてのちに黄色みを帯び、秋に黒紫色の実が熟します。
もとの記事は、サカキは日本各地に自生する、と書いていました。けれども辞典は、自生の範囲を関東以西、東海地方から西、本州中部以西などとしていて、北の境目の書き方こそ違うものの、どの辞典でも東北や北海道は入っていません。サカキのない東北や北海道では、よく似たヒサカキを神事に使う、と書く辞典もあります。南の端も、九州までとする辞典と、沖縄までとする辞典があります。
ヒサカキは、同じサカキ科の別の属の木です。辞典によると、東北地方より南の本州から沖縄の山地に生え、サカキの少ない地方では神事に代わりに使われます。東京など関東より北ではサカキが自生しないためヒサカキを使い、それを単にサカキと呼ぶことが多いので、しばしば混乱している、と書く辞典もあります。地域によっては、「さかき」と呼ばれている枝がヒサカキであることもある、ということです。見分けるときは、次のところを見ます。
- 葉の縁
サカキはなめらか。ヒサカキは細かいぎざぎざがある - 葉の長さ
サカキは7〜12センチほど。ヒサカキは3〜9センチほどで、枝に密につく - 花
サカキは6〜7月に白い花。ヒサカキは3〜4月に小さな花を下向きにつけ、花の時期には独特のにおいがある - 雄花と雌花
ヒサカキは、雄花をつける木と雌花をつける木が分かれている
サカキもヒサカキも育たない土地もあります。東京都神社庁は、榊が生育しない地方では、同じ常緑樹の杉や樅(もみ)、樫(かし)などを代わりに使っている、と説明しています。辞典は、モクレン科のオガタマノキも同じように神事に用いられる、としています。手に入る常緑の枝を、その土地の習わしに合わせて供えればよい、ということです。
「榊」は日本で作られた字
「榊」は、木へんに神と書く字です。東京都神社庁は、神と木を合わせた字なので神さまに関わりのある木だ、と説明しています。辞典によると「榊」は日本で作られた国字で、古事記や万葉集では「賢木」と書かれていました。古事記には、天香山(あまのかぐやま)の「五百つ真賢木」を根ごと掘り取る場面があります。辞典は、天の岩屋戸の神話で、榊に玉や鏡をかけて捧げ物としたことが記紀に記されている、と説明しています。
語源にはいくつかの説があります。東京都神社庁は、神の聖域と人の世界との境を示す「境木(さかいぎ)」が変わったという説、「栄木(さかき)」や、神聖な木を表す「賢木」から来たという説を挙げています。辞典も、栄える木の意味か、一説に境の木の意味とも、としています。どれか一つに決まっているわけではありません。
もともと「さかき」は、一つの植物の名前ではなかったと説明されています。辞典によると、古くは神事に使う常緑樹をまとめて「さかき」と呼び、葉に香りのあるシキミなども含まれていました。今でもナンテンをサカキと呼ぶ地方があるそうです。その中で、色や形の美しいサカキが神事にふさわしい木として、神社の境内などによく植えられるようになりました。
常緑の枝を使う理由について、東京都神社庁は、一年中青々とした緑が、神さまの尽きることのない恵みのしるしとされるからだ、と説明しています。もとの記事は「永遠の命」を表すと書いていましたが、神社庁の説明はここまでです。
サカキそのものが神として扱われた例もあります。橘忠兼がまとめた辞書『色葉字類抄』には、京都の吉田神社がサカキを神体としているとあります。また、平安時代から室町時代にかけて、奈良の興福寺の僧たちが朝廷に訴えを起こすときには、春日神社の神人(じにん)とともにサカキを捧げて京都に入った、といわれます。
古い榊の処分は、神社に確かめるか、自治体の分け方で
古くなった榊をどう手放すかについて、神社本庁や東京都神社庁の説明に、はっきりした決まりは見当たりませんでした。東京都神社庁が説明しているのは、古いお神札とお守りの納め方です。神社の古札納所(こさつおさめしょ)に納めると浄火で焼かれ、地方によっては1月15日の小正月に行われる左義長やどんど焼きで、松飾りや注連縄と一緒に焼く神社もあります。
もとの記事は、古い榊を古いお札や御守りと一緒に神社に持っていき、お焚き上げしてもらうのが最も丁寧だ、と書いていました。けれども伊勢の神宮は、古札納所に納められるのはお神札とお守りで、注連縄や置物など、それ以外のものは預かれない、と明記しています。榊を神社に納めたいときは、受け付けているかどうかを、先に社務所で確かめてください。
家庭ごみとして出すなら、住んでいる自治体の分け方に従います。たとえば広島市は、棒きれや草を可燃ごみとし、庭木を切った枝は50センチほどに切って束ね、少しずつ出すよう案内しています。分別の50音事典でも、草や花がらは可燃ごみです。岡山市は、剪定した枝や枯れ葉、雑草を無料で集めていて、枝は長さおおむね50センチ以下、直径12センチ以下に切り、片手で持てる重さに束ねるよう求めています。
「榊」を名指しした自治体の案内は見つかりませんでしたが、神棚の榊は量も少ないので、多くの自治体では草花や枝と同じ扱いになると考えられます。迷ったときは、自治体の分別の案内で確かめてください。
もとの記事は、白い紙に包んで塩をかけてから燃えるごみに出す、庭に埋める、という方法も挙げていましたが、どちらも出どころは見つかりませんでした。神社本庁は、塩でお清めをするのは日本の宗教的な習わしで、葬儀で塩を使うのも日常と非日常を分けるためだと説明していますが、榊の処分には触れていません。感謝の気持ちで紙に包むのは各家の心づかいとしてよいとしても、決まった作法ではありません。
辞典には、サカキにまつわる言い伝えも載っています。サカキは神霊を招く神木だったので、むやみに燃やしたり山で切ったりすることは禁じられ、破るとけがや災難があるといわれました。民家の庭に植えると位負けする、とも言われたそうです。一方で、もとの記事のように、榊が枯れるのは神さまが場を清めてくださった証だ、とする説明は、辞典にも神社の案内にも見当たりませんでした。
榊立てと神棚の置き方
榊立ては神棚の左右に一対置きます。神社本庁の小冊子は、米を中央にして酒・塩・水を並べる神饌の置き方とともに、榊を神棚の両側に供える図を載せています。真榊(まさかき)や灯りなどの神具は一例で、できる範囲でそろえればよい、としています。
神棚は、目線より高く、お神札が南か東を向く明るい場所に設けるのが一般的とされます。三社造りの宮形では、中央に伊勢の神宮のお神札、向かって右に氏神さま、左に崇敬する神社のお神札を納める、と神社本庁の小冊子は説明しています。置き場所の考え方は、お守りの持ち歩き方の記事でもまとめています。
神社の基本を一通り確かめたいときは、神社本庁が監修した入門書『神社のいろは』(扶桑社、2012年)があります。神社本庁のよくある質問でも、神社の基礎知識がまとめられた本として挙げられています。
よくある質問
Q. 神棚の榊は、いつ交換すればいいですか?
A. 神社本庁や東京都神社庁の説明に、交換日の決まりは見当たりません。書かれているのは毎日水を取り替えることです。葉がしおれたり色が変わったりしたら替えればよく、1日と15日に替える習わしに合わせてもかまいません。
Q. なぜ1日と15日に替えるといわれるのですか?
A. 東京都神社庁は、毎月1日や15日を、酒や魚などを加えて神棚を丁重にまつる日としています。神社でも、この日に月ごとの祭りを行うところがあります。新月と満月に合わせるという説明は旧暦の話で、今の暦の日付とは合いません。
Q. 古い榊は、どう処分すればいいですか?
A. 神社本庁や神社庁の説明に、榊の処分の決まりは見当たりません。神社に納めたいときは、受け付けているかを先に確かめてください(伊勢の神宮の古札納所は、お神札とお守り以外を預かりません)。家庭ごみに出すなら、住んでいる自治体の草花や枝の分け方に従います。
Q. ヒサカキを供えてもいいですか?
A. 辞典によると、サカキの少ない地方や自生しない地方では、ヒサカキを代わりに神事に使っています。自生の北の境目は辞典によって関東・東海・本州中部と書き方が違いますが、東北と北海道はどの辞典でも入っていません。東京都神社庁は、杉や樫などを使う地方もあると説明しています。
Q. 榊がすぐ枯れるのは、縁起が悪いのですか?
A. 枯れることを凶とする説明も、神さまが清めた証とする説明も、神社の案内には見当たりません。神社本庁は毎日水を取り替えてみずみずしさを保つよう勧めているので、気づいたら新しい榊に替えましょう。


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