また同じようなミスをしてしまった。気をつけているつもりなのに、最近なぜかミスが止まらない。スピリチュアルの解説では、続くミスを、魂からのサインや、エネルギーが滞っているしるし、今の仕事が本来の道ではないという知らせとして説明することがあります。
ここでは、続くミスについて確かめられることを集めました。厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」と睡眠のガイド、眠りや疲れとミスを調べた研究、事故の起こり方を説明する二つの考え方(スイスチーズモデルとハインリッヒの法則)の出どころを見ていきます。疲れの確かめ方と相談先は、最初の節にまとめました。
寝不足と長い勤務は、ミスを増やす

もとの記事は、過労や睡眠不足、人間関係のストレスが積み重なるとエネルギーが重くなる、と説明し、自然の中の散歩や塩風呂、深呼吸で浄化するよう勧めていました。エネルギーの流れが整うと、集中力や判断力が自然と上がっていく、とも書いていました。けれども、眠りと疲れがミスにかかわることは、エネルギーという言葉を使わなくても、実験で確かめられています。
オーストラリアの研究では、運輸業で働く30人と軍の9人の計39人に、28時間眠らずに過ごしてもらう日と、決まった量のお酒を飲んでもらう日を設けて、同じ課題の成績を比べました。17〜19時間起きていたころ(夜10時半から午前1時ごろ)には、いくつかの課題の成績が、血液中のアルコールの濃さが0.05%のときと同じか、それより悪くなり、反応は最大で5割遅くなりました。さらに起き続けると、0.1%のときに相当する成績になりました。
アメリカの研究では、2つの実験に計48人の健康な大人(21〜38歳)が参加しました。一つは、夜に寝床にいる時間を4時間、6時間、8時間のどれかに決めて14日間続ける実験、もう一つは3晩眠らない実験です。4時間と6時間では、日がたつにつれて頭を使う課題の成績が下がり、6時間以下を14日続けると、最大で2晩徹夜したのと同じくらいまで落ちました。ところが、本人が答える眠気は初めに上がったあとほとんど増えず、6時間と4時間で差がありませんでした。著者らは、参加者が成績の低下にほとんど気づいていなかったと見ています。
アメリカの病院の集中治療室では、研修医の勤務表を、24時間以上の勤務が1回おきに入る従来のものと、長い勤務をなくして週の勤務時間を減らしたものとで比べる研究が行われました。2,203患者日を調べると、従来の勤務表のときのほうが、研修医の重大な医療ミスが35.9%多く、重大な診断のミスは5.6倍でした。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」も、睡眠不足は日中の眠気や疲労、注意力や判断力の低下に関連する作業効率の低下を招き、事故など重大な結果につながる場合もある、と書いています。大人は6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保するよう勧めていて、2019年の国の調査では、1日の平均睡眠が6時間未満の人は男性37.5%、女性40.6%でした。
同じガイドのコラムは、働く時間と睡眠の関係も紹介しています。1日の労働時間が7〜9時間未満の人に比べて、睡眠が6時間未満になりやすさは、男性では9時間以上働く人で2.76倍、11時間以上で8.62倍、女性では9時間以上で2.71倍、11時間以上で5.59倍でした。仕事が終わってから次に始まるまでの間が12時間未満の人は、眠って休めた感じがなく、疲れやストレスを多く感じていた、という調査も紹介されています。
ミスが増えたと感じたら、まず疲れの程度を確かめてください。厚生労働省の「こころの耳」には、最近1か月の体の症状と勤務の状況を27問で確かめる「働く人の疲労蓄積度セルフチェック2023」があります。時間外・休日の労働が月80時間を超え、疲れがたまっている人は、会社に申し出ると医師の面接指導を受けられます(労働安全衛生法)。電話では「こころの耳電話相談」(0120-565-455、平日17〜22時・土日10〜16時、祝日と年末年始を除く)が、働く人と家族、会社の担当者の相談を受けていて、ストレスチェックの結果についても相談できます。2026年1月から非通知の電話は受け付けていないので、非通知の設定にしている人は、番号の前に186をつけてかけてください。
気分の落ち込みや眠れない日が続くときに受診する目安は人生が変わる前兆の記事に、昼間の強い眠気で考えたい病気は満月に眠くなるときの記事にまとめています。
仕事の失敗への心配は、働く人の悩みの上位にある
もとの記事は、ミスの負のスパイラルに苦しんでいる人は少なくない、と書いていましたが、数字は示していませんでした。厚生労働省の2025年の労働安全衛生調査では、仕事や職業生活で強い不安や悩み、ストレスを感じることがある労働者は67.5%でした。その内容(主なもの三つまで)は、「仕事の量」と「仕事の失敗、責任の発生等」がどちらも39.5%で最も多く、次が「対人関係」の32.9%です。失敗や責任への心配は、働く人の悩みとして最も多いものの一つです。
ヒューマンエラーは「原因ではなく結果」
職場のあんぜんサイトは、ヒューマンエラーを、意図しない結果を生じる人間の行為と説明しています。やるべきことが決まっているのに、しない、あるいはしてはならないことをする、と後から言われる出来事のことで、わざと決まりを破るのは「違反」として別に考えます。
同じページは、労働災害の8割に人の不安全な行動が含まれるという国の分析を紹介する一方で、事故の原因は人が直接起こすエラーだけではなく、作業環境、施設や設備、教育訓練、会社の安全への取り組みなど、人を取りまく多くの要因が含まれる、としています。防ぐ方法として挙げられているのは、次の四つです。
- 間違えないように人を訓練する
- 間違えにくい仕組みややり方にする
- 間違えてもすぐ見つかるようにする
- 間違えても影響が小さくなるようにする
人は適度に緊張しているときはエラーが少なく、緊張しすぎても、緊張が足りなくてもエラーが増える、単調な見張りの仕事は30分を超えると緊張が続かない、とも書かれています。ページは、どれだけ訓練しても間違いは避けられないとしたうえで、ヒューマンエラーは原因ではなく結果だと考えると納得できるのではないか、と結んでいます。
もとの記事は、ミスの原因を、魂の方向とのずれや、内省の時間の不足、自己否定といった本人の内側に求めていました。安全の分野の考え方では、続くミスは、本人の心の持ち方より先に、仕組みや手順、働く環境の側から見直すものです。
途中で話しかけられると、ミスは増える
オーストラリアの2つの病院で、看護師98人が720人の患者に4,271回薬を準備して渡す場面を、505時間観察した研究があります。作業が1回中断されるごとに、手順の抜けは12.1%、量の間違いなどのエラーは12.7%増えていました。中断のない作業でエラーがあったのは25.3%でしたが、3回中断されると38.9%に上がりました。経験の長い看護師でも、エラーは減っていませんでした。
観察した研究なので、中断だけが原因だとは言い切れません。それでも、確認の作業をしている最中に、電話や声かけ、通知で手が止まることが多いなら、そこがミスの入り口になっているのかもしれません。研究で試されたことではありませんが、確認の作業中は通知を切る、途中で止まったら最初から確かめ直す、といった工夫は試してみる価値があります。
スイスチーズモデル:穴が重なると事故になる
事故の起こり方を説明する考え方に、イギリスの心理学者ジェームズ・リーズンの「スイスチーズモデル」があります。安全のための守りは何枚も重ねたチーズの切れ端のようなもので、どの切れ端にも穴がある。ふだんはどこかの切れ端が止めてくれるけれど、穴がたまたま一直線に並ぶと、危険が全部を通り抜けて事故になる、という見方です。
リーズン自身がほかの研究者と書いた2006年の報告書によると、この考え方の始まりは、1987〜88年に本『ヒューマンエラー』(1990年)を書いていたころです。1990年の本には、事故への筋道が何枚もの板を通り抜けていく図があり、報告書は、スイスチーズという呼び名はこの図から生まれたのだろう、名付けたのはリーズン本人ではなく、オーストラリアの航空安全調査局の局長だったロブ・リーだろう、としています。1997年の本『組織事故』で、一枚ずつに名前を付けないチーズの切れ端を並べた今の形になり、穴ができるわけの説明が加わりました。
穴には2種類あります。現場の人のその場の間違いや決まり破りでできる、短い間だけ開く穴と、設計した人や管理する人の決定で生まれ、長く残る穴(潜在的な条件)です。報告書は、こうした潜在的な条件はどの組織にもあり、資源の少ない部署ほど、古い道具や時間の圧力、人手不足といったエラーを招く条件を抱えやすい、と書いています。
この考え方には批判もあります。穴が何なのか、なぜそこにあり、どう重なるのかを、モデルは説明していない。遠くの条件と事故の結びつきは、事故のあとから見て初めて見えることが多い。現場の単純なうっかりが主な原因のこともある。報告書はこうした批判を紹介し、責任を管理する側に移しすぎる危険をリーズン自身も認めていると書いたうえで、前もって条件を特定しにくくても、そこに手を打つ予防には意味がある、としています。
広まった分、受け取り方はばらついています。このモデルをよく知っていると答えた医療の品質や安全の専門家85人に、チーズの切れ端や穴が何を表すかなど23問をたずねた2005年の研究では、論文の著者の解釈と合う答えは平均15.3問でした(でたらめに答えても11.5問ほどは合う設問です)。
仕事のミスに当てはめるなら、自分の側の穴(前の晩の睡眠、疲れ、急いでいたか)と、職場の側の穴(手順の分かりにくさ、確かめる人がいるか、時間の余裕、中断の多さ)を分けて書き出すことができます。続くミスを自分だけのせいにせず、どの穴が重なったのかを見るための道具として使えます。
ハインリッヒの「1:29:300」の出どころ
職場の安全の話でよく引かれるのが、ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)です。職場のあんぜんサイトの説明では、アメリカの損害保険会社の安全技師だったハインリッヒが発表したもので、同じ人が起こした330件の災害のうち、重い災害が1件(死亡や手足の切断のような大事故だけではない)、軽いけがが29件、けがのない事故が300件ある、というものです。300件の背後には、何千もの不安全な行動や状態がある、とも指摘しています。
同じページは、比率は鉄骨の組み立てと事務の仕事では異なるとハインリッヒ自身も言っていたこと、297社の175万件の報告から「1:10:30:600」を導いたバードの研究があることを紹介しています。そのうえで、大切なのは比率の数字ではなく、災害の背後に危険が数多くあることで、ヒヤリハットをできるだけつかんで手を打つことだ、としています。事故と災害の関係を示す考え方としては今も使える、とも書いています。
比率そのものには、疑問も出ています。アメリカの安全の専門家マニュエルが2011年に専門誌に書いた論文によると、ハインリッヒの本『産業災害防止論』は1931年から1959年までに4つの版があり、のちに改訂版を書いた人たちも、元の研究の記録を見つけられませんでした。初版は比率を「推定される」と書き、版を重ねるうちに、第2版で「同じ種類の」事故、第3版で「同じ人が起こした」事故という条件が、説明なしに加わりました。
ハインリッヒの言う「重い傷害」は、保険会社などに報告された件のことで、その大半は死亡や骨折ではありませんでした。論文は、アメリカの労災保険のデータで、件数は減っても、減り方は軽い案件ほど大きく、5万ドルを超える案件の減り方は2,000ドル未満の案件の約5分の1にとどまっていたことを示し、小さな事故を減らせば重い事故も同じだけ減る、という考えを神話だとしています。事故の原因の88%が人の不安全な行為だという、同じハインリッヒの数字についても、保険の請求記録から選んだ1万2千件と事業主の記録6万3千件をもとにした分類で、どちらの記録にも原因を書く欄がほとんどないため、原因の分析には向かない、と批判しています。
ミスを300回すると大事故が1回起きる、といった使い方は、元の研究の範囲を超えています。この法則は確かな統計としてではなく、ヒヤリとしたことを放っておかずに手を打つ、という考え方として受け取るのがよさそうです。
直感より、確かめる手順
もとの記事は、確認したほうがいいと思ったのに飛ばしてしまった、といった小さな直感を大切にすることが、ミスを減らすことにつながる、と書いていました。確認の抜けを防ぐのは、直感よりも、決めておいた確かめる手順です。
職場のあんぜんサイトによると、指差呼称は、作業の対象や標識、計器を指で差し、名前と状態を声に出して確かめる方法で、もとは国鉄の蒸気機関車の運転士が信号を確かめるために行っていたものです。1994年に鉄道総合技術研究所が行った実験では、操作ボタンの押し間違いは、指差しも声出しもしないときが2.38%、声出しだけで1.0%、指差しだけで0.75%、両方行うと0.38%で、約6分の1になりました。実験室でボタンを押す課題の結果で、指差呼称だけでエラーをなくすことはできない、とサイトも書いています。
直感が当たりやすいのは、規則性があり、結果がすぐに分かって学べる環境に限られます(直感が当たるのはどんなときかの記事)。「なんとなく変だ」と感じたら、その感じを信じて進むより、決めた手順で確かめ直すきっかけにしてください。
ヒヤリとした、ハッとした体験を取り上げて災害の防止につなげる活動を、ヒヤリハット活動と呼びます。職場のあんぜんサイトは、ヒヤリハットは報告する側にも受ける側にも名誉なことではないので、働く人を責めないという取り決めをして守らないと長続きしない、と書いています。手順書どおりにしなかったことが原因でも、手順書に無理があって守れないのかもしれず、見直しのよい機会だ、ともしています。サイトには、墜落・転落や転倒、はさまれといった事故の型ごとに、イラスト付きのヒヤリ・ハット事例が451件載っています。
自分を責めないことは、甘やかしではない
もとの記事は、自己否定は低いエネルギーを引き寄せ、さらに悪い出来事を増やす可能性がある、と書いていました。そう確かめた資料は見つかりませんでした。
アメリカの大学の4つの実験では、失敗や自分の弱点を、責めずに思いやる見方で振り返った人たちは、自尊心を高める見方をした人や、何もしない、楽しいことで気をそらすといった比べる相手より、弱点は変えられると考え、同じ過ちを繰り返さないようにしたい気持ちが強くなりました。難しいテストに一度失敗したあとの実験では、次のテストに向けて勉強する時間が長くなりました。参加者の人数や、ほかの研究者による追試は確かめられていませんが、責めないことが、かえって次に向けた行動を後押しする場合があることを示した研究です。
大きな変化の前には一時的に物事が乱れるもので、「好転反応」に近い、という説明もありました。国民生活センターは2023年、体調がよくなる途中で一時的に悪くなるという好転反応は、科学的には存在しない、と注意を呼びかけています(くわしくは潜在意識で願いが叶う前兆の記事)。
職場で無礼な扱いを受けると、作業の成績も、人を手助けする行動も下がったという実験もあります(同僚が苦手なときの記事)。無視や嫌がらせが続いているなら、ミスより先にそちらを相談してください。パワハラに当たる例と相談先は、職場の人間関係がつらいときの記事にまとめています。
ミスの記録を、責めずにつける
もとの記事の勧めのうち、ミスのパターンを記録することは、そのまま生かせます。ヒヤリハットの考え方に合わせて、自分を責める材料ではなく、穴を見つけるための記録にします。書き留めておきたいのは、次のようなことです。
- いつ起きたか
時刻と曜日を書きます。夕方や週の終わりに偏っていれば、疲れの穴かもしれません。 - 前の晩の睡眠
寝床に入った時刻と起きた時刻を書きます。6時間を切る日が続いていないかを見ます。 - その日の働いた時間
残業が続いていないか、仕事が終わってから次に始まるまでに12時間ほどの間があるかを見ます。 - 途中で手が止まったか
電話や声かけ、通知で中断されたか、何回あったかを書きます。 - 手順に無理はなかったか
確かめる手順が決まっていたか、急がされて飛ばしたか、手順書が実際の作業に合っているかを書きます。
偏りが見えたら、自分でできること(早めに寝る、確認中は通知を切る)と、職場に相談すること(手順や人手、時間の見直し)に分けます。今の仕事が合わないと感じるときの考え方と、退職の決まりは、仕事を辞めたいときの記事にまとめています。ミスが続くことだけで、今の仕事が本来の道ではないと決める必要はありません。
ミスが事故になる仕組みと防ぐ工夫を一冊で読みたいときは、中田亨さんの『ヒューマンエラーを防ぐ知恵 増補版』(化学同人の文庫、2023年)があります。出版社の紹介では、事故が起きるまでの過程だけでなく、事故が起きる構造にも目を向けて防ぐための理論を考え、すぐ役立つ工夫を身近な例を題材に問題の形で紹介する本です。2007年に出た本に、安全は誰がどう決めるのかを考える章を加えた版です。
よくある質問
Q. 仕事でミスが続くのは、スピリチュアルなサインですか?
A. そう確かめた資料はありません。睡眠不足や長い勤務、作業の中断でミスが増えることは、研究で分かっています。まず睡眠と働く時間、確かめる手順を見直してください。
Q. 寝不足でミスは増えますか?
A. 増えることが実験で分かっています。17〜19時間起きていると、一部の課題で血液中のアルコールの濃さ0.05%のときと同じくらい成績が落ちた実験があり、寝床の時間を6時間以下にして14日続けると、本人が気づかないまま成績が下がり続けた実験もあります。
Q. ミスが続くのは、今の仕事が合っていないからですか?
A. それだけでは決められません。疲れや中断、手順の無理など、仕事の中身とは別の穴が重なっていることもあります。記録をつけて、どの穴が重なっているかを先に見てください。
Q. ハインリッヒの法則は本当ですか?
A. 1:29:300は確かな統計ではありません。元の研究の記録は見つかっておらず、版によって条件も変わりました。背後にある危険に早く手を打つ、という考え方として使われています。
Q. 疲れているかどうか、自分で確かめる方法はありますか?
A. こころの耳の「働く人の疲労蓄積度セルフチェック2023」で、27問に答えて確かめられます。時間外・休日の労働が月80時間を超えて疲れがたまっているなら、会社に申し出て医師の面接指導を受けられます。


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