道の先の塀の上に、真っ白な猫がいて、こちらを見ている。白猫を見たら縁起がいい、幸運や浄化のしるしだ、という説明をよく見かけます。その猫の目が青かったり、左右で色が違ったりすると、なおさら特別な出会いに思えるかもしれません。
ここでは、白猫についての言い伝えが本当にあるのかを、国語辞典や百科事典、国際日本文化研究センターの昔話のデータベースで確かめます。あわせて、白い毛がどう決まるのか、青い目の白猫に耳の聞こえない猫が多いという獣医学の研究、白猫の耳や鼻が日差しに弱いことなど、白猫に会ったときに知っておきたいことを、調べた猫の数と一緒にまとめます。
「白猫を見たらよいことがある」は、辞典に見つからない

もとの記事は、時代や文化を超えて「白い猫は吉兆・守護・神聖」という共通のイメージが世界中にあり、日本の各地には、白い猫が家の前を通るとよいことが起こるという言い伝えが残っている、と書いていました。けれども、日本国語大辞典、世界大百科事典、日本大百科全書の「白猫」「猫」の項目には、そうした言い伝えは見当たりませんでした。昔話や伝説を集めた国際日本文化研究センターのデータベースでも、見つかりませんでした。
辞典に載っている白猫の古い記録は、少し違った姿を見せます。日本国語大辞典が「白猫」の早い用例として挙げるのは、京都の相国寺の中にあった蔭凉軒の主が書いた公用の日記『蔭凉軒日録』の、長禄3年(1459年)8月22日の記事です。赤松次郎法師という人が白猫を献上すると手元に置かれたが、黒猫は献上してもすぐに返された、という趣旨が書かれています。
室町時代に白猫が好まれたようにも読めますが、誰に献上したのか、なぜ黒猫を返したのかは、辞典の引用からは分かりません。この一つの記事だけで「白猫は吉、黒猫は凶とされた」とまでは言えないでしょう。
白い動物をめでたいしるしとする考えそのものは、日本の古代にもありました。辞典によると、白いキジは突然変異で生まれることがあり、古代には瑞祥とされました。650年には、穴門(あなと)の国司が白いキジを献上したことから、年号を白雉(はくち)と改めています。ただ、猫について同じような記録は、辞典では見つかりませんでした。白い招き猫は福を招くとする説明はありますが、それにも典拠は示されていません(招き猫の記事)。
もとの記事は、古代エジプトではとくに白い猫が純粋さの象徴として尊ばれた、中世ヨーロッパでは白い猫が天使の使いとされた、イギリスでは白い猫の夢がよいしるし、ケルトでは白い動物が妖精の世界とつながる、とも書いていましたが、どれも出どころは見つかりませんでした。
昔話の白猫は、化け猫にも、道案内にもなる
国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」は、各地の民俗の報告に載った妖怪や不思議な話を集めたものです。全文検索で「白猫」と引くと、出てくるのは1件で、静岡県河津町の化け猫の昔話でした。
1981年の民俗の雑誌『西郊民俗』に載った「伊豆の昔話」によると、伊豆の船宿に、年を経た白猫がいました。ある船頭が、猫たちが宴会をしているところを見てしまい、白猫に口止めされますが、宿の亭主に話してしまいます。白猫は殺されて畑に埋められ、やがて季節外れのきゅうりが実りました。それを食べた船頭は死んでしまい、きゅうりは白猫の死骸の目の穴から生えていた、という話です。
反対に、人を助ける白猫もいます。1931年の雑誌『民俗学』に載った「長野県伝説集」には、長野県上田市の伝説として、戸隠山の鬼女を討ちに向かった平維茂(たいらのこれもち)の一行が、流れの速い川を渡れずにいると、白い大きな猫が現れて泳いで浅瀬を教え、途中にある岩を猫岩と呼ぶようになった、という話が載っています。
データベースで「猫」と「白」を合わせて引くと42件が出ますが、白い猫そのものが出てくるのは、この2件だけでした。全文検索は書き方の違いで結果が変わるので、ほかに話がないとは言い切れません。それでも確かめられた範囲では、日本の言い伝えの白猫は、人を害する化け猫にも、人を助ける猫にもなっていて、「見たら吉」と決まってはいません。
猫が「霊的」と言われてきたわけ
もとの記事は、猫はもともと第六感に優れ、見えない世界のエネルギーを敏感に感じ取る、と書いていました。そうした力を確かめた資料はありません。辞典は、猫が魔物めいたものとされた理由を、もっと身近なところに求めています。
世界大百科事典は、西洋で猫に魔的なものが備わっているとされたのは、夜に光る目、静電気を帯びる毛、音を立てない独特の歩き方のためだ、としています。日本については、瞳が時と所によって太くも細くも変わり、人を避けて秘密があるようなそぶりを見せるからだろう、と推測しています。夜に猫の目が光って見えるのは、網膜の後ろにあるタペータムという反射板が、弱い光を増幅するためです。
辞典に載る猫の言い伝えには、黒猫が朝に道を横切るのは不幸のしるし、亡くなった人に猫を近づけるな、といった不吉の向きのものも多くあります(野良猫が寄ってくる記事)。猫の言い伝えは、吉にも凶にも転んできました。
白い毛は、一つの遺伝子の変化で決まる
白い猫の毛には、色素がありません。2014年にアメリカなどの研究者たちが発表した論文によると、猫を真っ白にする「優性の白」の遺伝子の正体は、キットと呼ばれる遺伝子でした。この遺伝子の中に、猫の祖先の体に入り込んだウイルスの名残(内在性レトロウイルス)の端の部分だけが入り込むと毛が白一色になり、名残がまるごと入り込むと、体の一部が白い「ぶち」になります。
研究者たちは、白猫のいる家系を調べてこの遺伝子を突き止め、30品種270匹の猫の調査でも、端の部分だけの挿入は白一色と青い目に、まるごとの挿入は白いぶちに、はっきり結びついていることを確かめました。この遺伝子は、毛を白くすることには必ず表れますが、青い目や耳の聞こえにくさには、表れたり表れなかったりします。
優性の白の遺伝子は、一つ持つだけで毛が白くなります。そのため、白猫の親から色のある子猫が生まれることもあります。遺伝の理屈で計算すると、白の遺伝子を一つ持つ白猫と、持たない猫のあいだの子は、およそ半分が白になります。
白い毛の下には、もとの毛色や模様が隠れています。獣医の難聴の研究者ストレインは、この遺伝子を持つ猫はいつも真っ白とは限らず、頭に色のついた斑があって、成長とともに消えることがよくある、と書いています。百科事典にも、純白で青い目の猫でも、光の反射で本来の模様が見えることがある、とあります。白いぶちをつくる遺伝子では、耳の聞こえにくさの報告はない、ともストレインは書いています。
青い目の白猫と、耳の聞こえ
白猫について、いちばんよく調べられているのは耳のことです。進化論のダーウィンは、1859年の『種の起源』の初版で、体の特徴が思いがけず結びついている例として、青い目の猫はきまって耳が聞こえない、と書きました。1872年の第6版では、全身が白く青い目の猫は一般に耳が聞こえない、と書き改め、雄に限られるという説が最近出た、と付け加えています。今の研究では、耳の聞こえと性別との関係は見つかっていません。
仕組みも分かってきています。ストレインの2017年の総説によると、内耳の血管条(けっかんじょう)という場所には色素をつくるメラノサイトがあり、音を感じる細胞のまわりの液の成分を保つ役目をしています。色素の細胞がないと血管条が壊れ、続いて音を感じる細胞が死んでしまいます。猫の難聴でいちばん多いのは、こうした遺伝による生まれつきの難聴で、白い毛、とくに青い目と強く結びついている、とストレインは書いています。
では、どのくらいの白猫が聞こえにくいのでしょうか。数字は、どんな猫を何匹調べたかによって大きく違います。
- 昔の研究用の雑種の白猫(1960〜70年代の3つの研究)
白猫256匹をまとめると、片耳が聞こえない猫が12.1%、両耳が37.9%で、合わせて半数だった、とストレインが1984年の総説を引いて紹介しています。このうち2つの研究では、両目が青い猫で85%と64.9%、片目だけ青い猫で40%と39.1%、青い目のない猫で16.7%と22%でした。元の研究は開けておらず、どう測った数字なのかは確かめられませんでした。 - 耳の聞こえない猫のいる実験用の繁殖集団(2007年)
聞こえない猫が67%、一部だけ聞こえる猫が29%でした。耳と青い目を一緒に左右する主な遺伝子があり、ほかにも多くの遺伝子が関わる、と著者たちは考えています。 - 飼い主のいる純血種の白猫84匹(2009年)
10品種の猫を繁殖の前に検査すると、20.2%が聞こえず、両耳が9匹、片耳が8匹でした。目の色とは関係があり、性別とは関係がありませんでした。片耳だけの難聴は、両耳と同じくらい多くいました。 - イギリスの純血種の白い子猫132匹(2019年)
生後6〜21週の白一色の子猫の30.3%が聞こえず(両耳15.9%、片耳14.4%)、同じ腹の色のある子猫61匹には一匹もいませんでした。青い目が一つの子猫では44.4%、二つでは50%、青い目のない子猫では22.2%でした。品種による差もありました。 - ポーランドの純血種の白猫72匹(2022年)、白いデボンレックス40匹(2024年)
聞こえない猫は16.7%と10%で、どちらの調査でも、青い目との関係は見つかりませんでした。
昔の研究用の雑種の白猫の数字と、飼い主のいる純血種の白猫の数字(10〜30%)は、猫の集め方も年代も検査の方法も違うので、そのまま比べることはできません。言えるのは、白猫の耳が聞こえない割合は、調べた集団によって1割ほどから半数を超えるものまで幅があり、青い目の猫で多いと報告した研究が多い一方、関係が見つからなかった調査もある、ということです。白猫の半分は耳が聞こえない、青い目の白猫なら必ず聞こえない、とは言えません。
ストレインは、シャム猫の毛色の遺伝子をあわせ持つ白猫は、青い目でも耳が聞こえることがある、と書いています。純血種の白猫に難聴が少ないのはこの遺伝子のためだ、という説明もありますが、それを裏づけるデータはない、とのことです。2022年の論文の説明によると、聞こえない猫は生まれつきか、生後4〜5週のうちに聞こえなくなり、聞こえが戻ることはありません。
片耳だけ聞こえない猫は、ふだんの様子ではまず分かりません。ストレインは、行動で耳の聞こえを確かめるのは主観的で、片耳の難聴は見抜けない、と書いています。確かめるには、音に対する脳の反応を電気的に測る、脳幹聴覚誘発反応という検査が必要です。生まれつきの難聴を治す方法は、今のところありません。
白猫に会ったら、驚かせないように
もとの記事は、白い猫がそっと寄り添ってきたり、じっと見つめてきたりするのは、あなたが守られているというメッセージだ、と書いていました。けれども、まっすぐ見つめ合うことは、猫にとってはむしろ緊張の場面になりえます(野良猫が寄ってくる記事)。
相手が白猫なら、もう一つ気にかけたいことがあります。耳の聞こえない猫は、近づく足音や声に気づきません。ストレインは、驚かされた耳の聞こえない猫が反射的にかんだり、ひっかいたりすることがあり、乳幼児には危険がある、と注意しています。白猫に近づくときは、後ろから急に触らず、猫の目に入るところからゆっくり近づくほうが安心です。
野良の白猫なら、触る前に病気のことも思い出してください。厚生労働省は、野良猫には安易に触らないよう呼びかけていて、弱った野良猫から重症熱性血小板減少症候群に感染した例もあります。もとの記事は、白い猫が家に来るのは浄化や幸運のしるしだとして、受け入れる方向で書いていましたが、触ったら必ず手を洗い、かまれたり引っかかれたりして熱や腫れが出たときは、医療機関を受診してください。
白い耳と鼻は、日差しに弱い
白い猫は、日差しにも弱いところがあります。獣医の手引きの飼い主向けの版によると、長く日光を浴びることは、猫の皮膚の扁平上皮がんの大きな原因で、全身または一部が白い猫は日差しから守られにくく、よくかかります。できやすいのは、白い皮膚の耳、目の上、まぶた、鼻、唇です。がんになる前に、皮膚が厚くなったり色が変わったりする日光角化症が出ることが多く、最初は治らない小さな傷のように見えることもあります。
同じ手引きは、紫外線を防ぐ窓にする、日差しの強い午前10時から午後2時は室内にいさせる、といった予防を挙げ、人用の日焼け止めは猫に安全とは限らないので、獣医に相談するよう勧めています。
白猫の耳の先や鼻に、治らない傷やかさぶた、赤み、皮膚の厚みが出てきたら、早めに動物病院で診てもらってください。
白猫を家に迎えるなら
白い子猫を迎えるときは、耳の聞こえにも気をつけておくとよいでしょう。ストレインは、両耳が聞こえない猫は車や外敵に気づけないので、室内で飼うのが望ましい、としています。片耳だけ、あるいは一部だけ聞こえない猫には特別な世話はいらないが、遺伝による難聴が疑われる猫は繁殖に使わないように、とも書いています。
耳の検査ができる動物病院は限られます。呼んでも振り向かない、大きな音に驚かない、といった様子が気になるときは、まずかかりつけで相談してみてください。片耳だけの難聴は様子では分からないので、気になるなら検査を受けられる病院を紹介してもらうのが確かです。
白猫との出会いを、どう受け止めるか
辞典と昔話をたどると、白猫は、室町時代の日記では手元に置かれ、伊豆の昔話では化け猫になり、長野の伝説では人に浅瀬を教えていました。白猫を見たらよいことがある、と決まった言い伝えは見つかりませんでしたが、白い猫が昔から人の目を引き、さまざまな話を生んできたことは確かです。
そして、目の前の白猫について確かに言えるのは、その白い毛が一つの遺伝子の変化から生まれ、耳や皮膚に気をつけたい体質と結びついていることです。白猫を見かけたら、縁起を占うより、驚かせないように、日差しの強い日は日陰を、と思い出してあげてください。
猫の毛色がどう遺伝するのかをもっと知りたいときは、野澤謙さんの『ネコの毛並み 毛色多型と分布』(裳華房、1996年)があります。三毛・白・トラ・シャムなどの毛色の遺伝と、その分布や違い、日本の猫のルーツを解説した本で、日本の猫の毛色の遺伝子の頻度を調べた章もあります。
よくある質問
Q. 白猫を見たら縁起がいいのですか?
A. 辞典や昔話のデータベースでは、白猫を見るとよいことがあるという言い伝えは見つかりませんでした。日本の言い伝えの白猫には、化け猫も、人を助ける猫もいます。
Q. 青い目の白猫は耳が聞こえないのですか?
A. 青い目の白猫で聞こえない猫が多いと報告した研究は多いものの、必ずではありません。飼い主のいる純血種の白猫の調査では、聞こえない猫は1〜3割ほどで、青い目との関係が見つからなかった調査もあります。
Q. 白猫と黒猫で意味は違いますか?
A. 室町時代の日記に、白猫は手元に置かれ黒猫は返されたという記事がありますが、理由は分かりません。もとの記事の「黒猫は魔除け」の出どころは見つからず、辞典に載る言い伝えには、黒猫が朝に道を横切るのを不幸のしるしとするものもあります。
Q. 白猫の親から色のある子猫が生まれるのはなぜですか?
A. 毛を白くする遺伝子は一つ持つだけで働き、白い毛の下にはもとの毛色が隠れています。白の遺伝子を受け継がなかった子猫には、その色が表れます。
Q. 白猫の耳や鼻で気をつけることはありますか?
A. 白い皮膚は日差しに弱く、耳や鼻に皮膚がんができやすいとされます。治らない傷やかさぶたがあれば、早めに動物病院で診てもらってください。


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