店先やレジの横で片手を挙げている招き猫。開店祝いの定番で、「右手は金運、左手は客を招く」という説明をよく見かけます。色ごとの意味も、たくさん紹介されています。
ここでは、その説明がどこまでたどれるのかを確かめます。あわせて、招き猫がいつからあるのか、発祥を名乗る寺社が何と説明しているのか、そして「陶器」と「磁器」で何が違うのかを見ていきます。
招き猫は、江戸時代から

辞書では、招き猫は「すわって右または左の前足を上げ、人を招く格好をした猫の置き物」で、顧客や財宝を招くという縁起から客商売の家で飾るもの、と説明されています。
発祥の一説として辞典に載っているのは、江戸時代の天明年間(1781年から89年)の話です。江戸・両国にあった店が、金銀を彩色した招き猫を店頭に飾ったのがおこりとされ、その後、浅草の今戸で土製のものが盛んに作られました。
置物として登場したのは19世紀半ばと考えられていて、「日本古来の縁起物」という言い方は当たりません。江戸の終わりごろに生まれた、比べれば新しい縁起物です。
発祥を名乗る寺社は、何と説明しているか
- 豪徳寺(東京都世田谷区)
文明12年(1480年)に弘徳院として建てられ、万治2年(1659年)に改称しました。鷹狩りの帰りに、彦根藩主の井伊直孝が門前の猫に手招きされて立ち寄り、雷雨を避けたという話が伝わります。直孝の支援で寛永10年(1633年)に再興しました。 - 今戸(東京都台東区)
台東区の観光情報サイトは、この地が今戸焼発祥の地で、猫の焼き物を売っていたことから招き猫発祥の地でもある、と書いています。 - 自性院(東京都新宿区)
新宿区の刊行物には、戦で道に迷った太田道灌を黒猫が寺に導いたという「伝説が残ります」と書かれています。秘仏の猫地蔵は、毎年2月3日に開帳されます。
豪徳寺の説明で目を引くのは、招き猫の読み方そのものです。同寺の招福猫児(まねきねこ)は小判を持たず、右手を挙げています。そして公式には、「人を招いて『縁』をもたらしてくれますが、福そのものを与えてくれるわけではありません」と書かれています。報恩感謝の気持ちがあれば自然と福が訪れる、という教えによるものです。
「右手は金運」はどこから来たか
手の向きの意味は、辞典には書かれていません。デジタル大辞泉、日本国語大辞典、日本大百科全書、世界大百科事典、ブリタニカのいずれにも、右手と左手の違いの記載はありませんでした。
一方、公的なサイトには載っています。愛知県の観光サイトは、右手を挙げた猫は「銭を招く」、左手を挙げた猫は「お客を招く」と説明しています。国土交通省の資料も、左足を上げた猫は人を招き、右足を上げた猫は幸運や富をもたらすとしています。
ただ、先に見たように、発祥を名乗る豪徳寺の招福猫児は右手を挙げていて、金運ではなく「縁」をもたらすと説明されています。つまり、右手と左手の意味は、全国で一つに決まった作法ではありません。由来がいつ、どこから言われ始めたのかも、たどれませんでした。
両手を挙げた招き猫を「大きな幸運を招く」と説明するページがありますが、出どころは見つかりませんでした。「部屋の対角線上の財位に置く」という作法も、辞典や事典には見当たりません。
色の意味は、どこに載っているか
色ごとの意味は、愛知県の観光サイトに一覧があります。白は福を招く、黒は病を防ぐ、金は金運を招く、銀は長寿、ピンクは恋愛成就、青は交通安全、赤は魔除け、とされています。
ただし、この一覧にも典拠は示されていません。寺社や業界団体の公式の説明も見つかりませんでした。「赤は健康や縁結び」と書いている解説もあり、同じ色でも説明が食い違います。好きな色を選んでよい、というのが正直な答えです。
常滑(陶器)と瀬戸(磁器)のちがい
招き猫の産地として知られるのは、愛知県の常滑と瀬戸です。愛知県の観光サイトは、この二つを書き分けています。スリムで上品な「瀬戸系(磁器)」は、柔らかな線や前掛けのフリルなど細かい表現が得意。ずんぐりした「常滑系(陶器)」は、大きな耳、丸い顔、大きな目の二頭身が特徴です。
常滑系は、全国の約8割のシェアを占めるとされています。国土交通省の資料によれば、常滑で招き猫の生産が始まったのは1930年代後半で、伝統的な焼き物産業が衰えていたため、地元の職人が新しい商いとして作り始めました。1950年までに主要な生産地になっています。
常滑のとこなめ招き猫通りには、陶芸家が作った御利益陶製招き猫が39体並び、見守り猫「とこにゃん」は2007年に誕生した、高さ3.8メートル・幅6.3メートルの大きな顔です。
「陶器」と書かれていても、磁器のことがある
陶器と磁器は別のものです。招き猫を探すと、九谷焼のものも出てきますが、九谷焼は明暦年間(1655年ごろ)に始まったとされる色絵磁器です。紺青・緑・黄・紫・赤の「九谷五彩」で絵付けされます。
販売ページの商品名には、検索されやすいように「陶器」と「磁器」の両方の語が入っていることがあります。素材を決めて選びたいなら、商品名ではなく、素材の表示を見てください。「土の気を持つ陶器だから運気が安定する」という説明には、出どころがありません。
置き場所と扱い
- 出入口の近くや高い場所に置かない。地震のときに落ちてくる(東京消防庁の家具対策と同じ考え方)
- 窓やベランダの手すりの近くに、踏み台になる家具や台を作らない(子どもの転落を防ぐため)
- 底に釉薬がかかっていない素焼きのものは、木の棚を傷める。フェルトや敷物を挟む
- ほこりは乾いた柔らかい布で払う。絵付けの部分は、こすらない
- 扉の開け閉めで揺れる場所、棚の端は避ける
9月29日を「来る福」の語呂合わせで招き猫の日とする記念日もありますが、制定の経緯は確かめられませんでした。毎朝手を合わせる習慣が運気を変える、といった言い方もよく見ますが、それも確かめられることではありません。縁起物として気持ちよく飾れるなら、それで十分です。
例として、九谷焼の招き猫(左手を挙げた形)の販売ページです。九谷焼は色絵磁器で、常滑系の陶器とは作りが違います。商品名には「陶器」の語も入っているので、素材は販売ページの表示で確かめてください。
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よくある質問
Q. 招き猫は、いつからあるものですか?
A. 辞典は発祥の一説として江戸時代の天明年間(1781〜89年)を挙げ、置物として登場したのは19世紀半ばと考えられています。「日本古来」という言い方は当たりません。
Q. 右手を挙げた招き猫は金運ですか?
A. 全国で一つに決まった作法ではありません。辞典には手の違いの記載がなく、愛知県の観光サイトは右手を「銭を招く」と説明していますが、発祥を名乗る豪徳寺の招福猫児は右手を挙げていて、金運ではなく「縁」をもたらすと説明されています。
Q. 色にはどんな意味がありますか?
A. 愛知県の観光サイトの一覧では、白は福を招く、黒は病を防ぐ、金は金運、銀は長寿、ピンクは恋愛成就、青は交通安全、赤は魔除けとされています。ただし典拠は示されておらず、別の説明をしているページもあります。
Q. 陶器と磁器は、どちらがいいですか?
A. 好みで選んでかまいません。常滑系は陶器でずんぐりした二頭身、瀬戸系は磁器でスリムな作りです。素材による運気の違いには出どころがありません。
Q. 招き猫はどこで多く作られていますか?
A. 常滑系が全国の約8割のシェアを占めるとされています。常滑で生産が始まったのは1930年代後半で、1950年までに主要な生産地になりました。
Q. どこに置けばいいですか?
A. 置き場所の作法に確かな出どころはありません。出入口の近くや高い棚の端を避け、地震で落ちてこない場所を選んでください。窓際に踏み台になるものを作らないことも大切です。



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