青い海を眺めていた、大波にのまれた、溺れかけた、気持ちよく泳いでいた。海の夢から目が覚めると、何かのお告げではないかと気になります。夢占いの解説では、海は感情や無意識を表す、と説明されることがよくあります。
ここでは、その読み方がどこから来たのかを確かめたうえで、中国や明治の日本、アメリカの古い夢占いの本が海をどう読んだかを原本で見ていきます。日本各地の郷土誌に残る「水の夢」の言い伝え、泳ぐ夢や津波の夢をどれくらいの人が見るかという調査、震災のあとの夢の記録、津波や洪水の夢が気になったときに確かめたいことも紹介します。
「海の夢は感情や無意識」という読み方はどこから来たか

もとの記事は、夢占いでは海はとくに感情や無意識を象徴するとして、穏やかな海は心の安定、荒れた海は感情の混乱、泳ぐ夢は自己探求のしるし、と説明していました。けれども、これらの意味の出どころは示されていませんでした。
水や海を心の奥と結びつける読み方は、20世紀の精神分析の流れの中で目立つようになりました。スイスの精神科医ユングは、水を、無意識を表すありふれた象徴とみていた、と紹介されています。ただ、今の夢占いの本がどこまでユングの考えを取り入れたのかは、確かめられませんでした。
フロイトの『夢判断』は、水の中にいる夢や狭い所を通り抜ける夢の多くを、母の胎内や生まれるときの空想にもとづくものとして読みました。湖に身を投げる夢は、向きを逆にして「水から出る」、つまり生まれることを表す、という読み方です。波を切って楽しく泳ぐ夢をよく見る人は、子どものころにおねしょをしていた人だ、とも書いています。同じ精神分析の中でも、海や水の夢の読み方はそろっていませんでした。
それより前の夢占いは、海や水の夢を心の状態としてではなく、これから起きることの吉凶として、一行ずつ言い切っていました。
昔の夢占いの本は、海と水をどう読んだか
中国の古い夢占いの書『周公解夢』(周の政治家・周公旦の名を借りた書)には、海だけを扱った項目も、波の項目もありません。水と船の項目は、たとえば次のようなものです(訳は試訳です)。
- 川や海の水かさが増してあふれる夢は、大いに吉で栄える
- 大水が澄んでいる夢、水の中に心のままにいる夢は、大吉
- 水の中に落ちて出られない夢は、凶
- 水の上を歩く夢は大吉、水の上に立つ夢は凶事
- 船で川を渡る夢は、官職を得る。病人が船に乗る夢は、必ず死ぬ
明治39年(1906年)に日本語に訳された中国の夢占いの書『夢判断』(晋の葛洪の名で伝わり、宋の邵雍が集めたとされる本)には、海や波の項目がそろっています。大波が湧き立つ夢は吉にも凶にもなる夢で、女性はよい子を産み、男性は美しい妻を得るが、心が落ち着かず心配ごとが絶えないしるし、とされます。水が深く広く、波が立っていない夢は、国が太平で五穀が実る大吉です。海の潮水を飲む夢も大吉で、学ぶ人は試験に受かり、商人は海産物で大きな利益を得る、とあります。一方、井戸の水があふれて庭に流れる夢は凶で、洪水の前ぶれ、ふつうの人には盗難や水難のしるしとされました。
同じ1906年に出た日本の夢判断の本、薄美生の『夢の吉凶判断』は、海の夢を見ると近いうちに旅行をする、海がきわめて穏やかなら商売で大きな儲けがあり、浪が荒れていれば損をして財産を失うこともある、暴風で山のような大浪が狂っていれば危ない目にあって死ぬこともある、と書いています。澄み切った大河の夢は無事のしるし、濁っていれば悲しみと損失のしるしです。
1901年に初めて出版されたアメリカの夢占いの本(グスタヴァス・ミラー)も、穏やかな海の夢は吉で、船乗りはよい航海、商人は実入りのよい時期を迎え、沖で波が船を打つ音を聞く夢は商売の災難と家庭の争い、と読みます。溺れる夢は財産と命を失うしるしだが、助けられれば富と名誉へ上る、とも書いています。
もとの記事は、溺れたあとに助けられた夢なら困難を乗り越える力がある暗示、と書いていましたが、出どころは示していませんでした。助けられれば好転する、という形は、このアメリカの本の読み方によく似ています。
さらに古く、古代ギリシアの医学書を集めた『ヒポクラテス全集』(今裕 訳編、1931年)の「食餌」の編では、夢は体の状態を知らせるものとして読まれています。澄んだ水が自然に流れる川や泉を見るのは健康のしるしで、荒れ狂う海の夢は下腹の病のしるしだから、くだしぐすりで体を清めるように、と書かれています。洪水の夢は体の湿り気が多すぎる病を表すので、まず吐いてから食事を減らし、体を動かして乾いた物を食べるように、と指示しています。
同じ海や水の夢でも、中国の書は大きな水を吉とする項目が多く、明治とアメリカの本は穏やかか荒れているかで儲けと損失を分け、古代ギリシアの医学は体の病のしるしと読みました。どれも言い切る形ですが、読み方はそろっていません。
日本の言い伝えでは「水の夢を見ると火事にあう」
明治から昭和のはじめにかけての郷土誌をたどると、海そのものの夢の言い伝えは見つかりませんでしたが、水や洪水、大水の夢の言い伝えは各地に残っていました。
- 火事にあう
沖縄の『シマの話』(佐喜真興英、1925年)に、水の夢をみると火事にあう、熊本県の『鹿本郡誌』(1923年)に、大水の夢を見ると火事に会う、とあります。石川県の鹿島郡では、洪水の夢を見れば翌日に火災がある、とされていました。 - 出産・幸運・全快
福岡県八女郡では、洪水の夢は出産のしらせとされていました。宮崎県の『西諸県郡誌』(1933年)が並べる28の夢の言い伝えには、洪水の夢は幸運、滝や川の夢は病気が全快する、があります。 - 凶事・身内の病
岐阜県の稲葉郡では、洪水の夢をみれば凶事が起こる、美濃の言い伝えでも洪水の夢は不吉とされました。石川県の河北郡では、水の夢を見るときは凶事がある、鹿島郡では、洪水の夢を見れば年内に親族に病人が出る、と言われていました。 - 船と風呂
福岡県八女郡には、船に乗った夢を見ると運がよい、風呂の夢は悪い夢、という言い伝えもありました。
日本大百科全書は、洪水の夢を見ると火事にあうという言い伝えを、火事から放水、放水から洪水へとつないだ「間接連想」だと説明しています。逆に、火事の夢を見ると水難にあう、という言い伝えもありました(火事の夢の記事)。同じ洪水の夢が、土地によって出産のしらせにも、幸運にも、凶事にもなっています。
見た夢を人に話すかどうかの言い伝えもあります。沖縄の『シマの話』には、吉夢は人に話してはならず、悪夢はすぐ人に話せば凶を免れる、とあります。美濃では、よい夢は晩に話し、悪い夢は朝に話す、と言われていました。
海のかなたの他界という考え
「海の夢 スピリチュアル」と調べる人は、海そのものが持つ霊的な意味を知りたいのかもしれません。日本大百科全書によると、古事記や日本書紀、万葉集には、海神の住む海底の宮(綿津見の国)や、根の国、常世の国という考えが見え、浦島太郎の話もそうした宮と人の世の行き来を伝えるものとされます。沖縄を中心とする南の島々では、海のかなたにニライカナイなどと呼ぶ他界があり、祖先の霊が行く所で、稲や火もそこからもたらされた、と考えられてきました。
ただ同じ事典は、海底の宮のような考えが今の暮らしの習わしに広く残っているとはいえず、南の島々はその例外だ、とも書いています。漁師や船乗りの間には「板子一枚、下は地獄」という言葉があり、海は恵みと危険の両方を持つ場所でした。こうした信仰は、海の夢の意味を決めるものではありません。
泳ぐ夢、溺れる夢、津波の夢はどのくらい見るか
中国・西安の若い住民1,190人(平均19.7歳)に、55のテーマの夢があるかを尋ねた2023年の調査では、息がつまって呼吸ができない夢があると答えた人が33.1%、泳ぐ夢が28.5%、洪水や津波の夢が28.3%いました。最も多かったのは落ちる夢です(落ちる夢の記事)。泳ぐ夢も、水の災害の夢も、めずらしい夢ではありません。
日本では、関東の私立大学2校の学生287人(18〜22歳)に悪夢のテーマを尋ねた2018年の報告があります。災害にあう悪夢を年に数回以上見る人は24.4%、月に1〜2回以上見る人は6.3%でした。その前に大学生と社会人128人から集めた悪夢の例には、家が火事になる夢と並んで、津波が来る夢が挙がっていました。
体に触れた水が、夢に入りこむこともあります。1940年の心理学の教科書は、昼寝をしていて足に夕立の雨がかかり、溺れる夢を見た、という例を挙げています。一方、フロイトが紹介した、フランスのモーリーが自分の体で試した記録では、額に水を一滴たらしたときに見たのは、イタリアで汗をかきながらワインを飲む夢でした。赤い紙を通したろうそくの光を当てたときに、暑さと海の嵐の夢を見ています。水の刺激が、そのまま水の夢になるとは限りません。
典型的な夢のテーマがそれぞれ何を意味するのかは、研究でもまだ答えが出ていません。海の夢を見たら、意味を探す前に、最近海や水の映像を見たか、寝ている部屋が暑すぎたり寒すぎたりしなかったかを思い返してみるのも、一つの手がかりになります。
震災のあとに見る海や津波の夢
海の夢が、つらい記憶と結びついている人もいます。東日本大震災で大切な人を亡くした遺族がどんな夢を見ているかを、東北の大学生たちが調べた記録集として、金菱清 編『私の夢まで、会いに来てくれた』(2018年)があります。この本に載った夢の語りの言葉を数えた学会のシンポジウムでの発表(2019年)では、多く出てきた言葉に「一緒」「震災」「津波」「夢」が挙がっていました。
大きな地震のあと、揺れた地域の学生に地震の悪夢が増えたという研究もあります(地震の夢の記事)。もとの記事は、どんな夢も潜在意識からのやさしいメッセージだ、と結んでいましたが、災害を体験した人の海や津波の夢は、そう言い切れるものではありません。
怖い夢が何度も続く、眠るのが怖い、昼間の生活に差し支えるといったときは、心療内科や精神科、睡眠の専門の医療機関に相談してください。悪夢には、夢の筋書きを起きているあいだに書き換えて思い描くイメージリハーサル療法などの治療があります(同じ夢を何度も見る記事)。電話では、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)、よりそいホットライン(0120-279-338)に相談できます。
津波や洪水の夢が気になったら
津波の夢を見ても、それで地震や津波を前もって知ることはできません。気象庁は、日時や場所を特定して地震が起きると告げるような情報はデマと考えてよい、と説明しています。
不安が残るなら、自分の住む場所の危険を確かめてみてください。国土交通省と国土地理院の「ハザードマップポータルサイト」では、洪水や土砂災害、高潮、津波の危険を地図で調べられます。家や職場、よく行く海辺が水につかりそうな場所か、逃げる先はどこかを、夢を見た日に一度見ておくと、夢を備えに変えることができます。
もとの記事は、水はエネルギーを浄化すると言われているとして、湯船にゆっくりつかることを勧めていましたが、浄化の出どころは示されていませんでした。湯船につかってくつろぐなら、安全にも気を配ってください。
消費者庁は、冬場に多い高齢者の入浴中の事故に注意を呼びかけています。脱衣所と浴室を暖め、湯の温度は41度以下、つかるのは10分までを目安にし、浴槽からはゆっくり立ち上がってください。食後すぐやお酒を飲んだあと、睡眠薬などを飲んだあとの入浴は避け、入る前に家族に一声かけておくと安心です。
夢占いの辞典で海や波の項目を引いてみたいときは、不二龍彦さんの『増補改訂 決定版 夢占い大事典』(学研パブリッシング、2015年)があります。約1300項目の夢のシンボルを五十音順に引ける事典です。辞典の意味も、ここで見てきた古い本と同じように、一つの読み方として使ってください。
よくある質問
Q. 海の夢は吉夢ですか?
A. 中国の昔の夢の書は川や海の水があふれる夢を大吉とし、明治やアメリカの本は穏やかな海を儲け、荒れた海を損失のしるしとしました。決まった意味はなく、吉夢だと確かめた研究もありません。
Q. 大波や荒れた海の夢は悪い知らせですか?
A. 1906年に訳された中国の夢の書では、大波の夢は吉にも凶にもなる夢とされ、同じ年の日本の本は損失のしるしとしました。悪い知らせだと確かめた研究はありません。
Q. 溺れる夢を見ました。
A. 1901年のアメリカの夢占いの本は、溺れる夢は損失、助けられれば富と名誉、と読みました。西安の調査では、息ができない夢や泳ぐ夢があると答えた人が3割ほどいました。怖い夢が続くときは医療機関に相談してください。
Q. 津波の夢は、地震や津波の前ぶれですか?
A. 夢で地震や津波を前もって知ることはできません。気になるときは、ハザードマップで自分の地域の津波や洪水の危険と、逃げる先を確かめてください。
Q. 海の夢を何度も見ます。
A. 同じ夢をくり返し見ることは、めずらしくありません。眠るのが怖い、昼間の生活に差し支えるといったときは、心療内科や睡眠の専門の医療機関に相談してください。


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