深い緑色が美しい翡翠(ひすい)。英語ではジェイドと呼ばれ、ブレスレットや置物として人気があります。繁栄や守護の石として、日本でも中国でも何千年も大切にされてきた、と紹介されることがよくあります。
ここでは、翡翠と呼ばれる二つの石の違いを辞典や宝石学の資料で確かめ、日本の国石に選ばれた経緯、縄文時代のヒスイの歴史をたどります。樹脂や染料で処理されたものの見分け方、手入れ、検索で多い「ジェイドの効果」についてもまとめます。
翡翠と呼ばれる二つの石

「翡翠」は、もとは鳥のカワセミの別名で、雄を翡、雌を翠と書きます。宝石では、二つの違う石がこの名前で呼ばれています。
- 硬玉(ジェダイト)
ひすい輝石という鉱物が集まった岩石。細かな結晶が組み合わさっていて、とても割れにくい。硬さは6.5〜7。宝飾用のものはミャンマー北部のカチン州がほぼ唯一の産地 - 軟玉(ネフライト)
角閃石の仲間の細い繊維が絡み合った石。硬玉より少し軟らかく(6〜6.5)細工しやすい。中国、ニュージーランド、カナダなどで採れる
二つは鉱物としてはまったく別のもので、光の曲がり方(屈折率)がジェダイトは1.66、ネフライトは1.61と違うので、鑑別で見分けられます。ジェダイトの緑色は、クロムなどのわずかな成分によるものです。いわゆる「ピンクヒスイ」はヒスイではなくロディン岩という別の岩石だと、フォッサマグナミュージアムは説明しています。
「ジェイド」という名前と効果
アメリカの宝石学研究所によると、ジェイドという名前は、スペイン語の「脇腹の痛みの石」から来ています。スペインの探検家たちは、中南米の先住民が石を脇腹に当てて痛みをやわらげようとするのを見たそうです。ネフライトの名前も、ラテン語の「腎臓」に由来します。どちらも、痛みに効くと信じられた歴史を名前に残しています。
ただし、ヒスイが心や体に効くことを確かめた研究は見つかりませんでした。2025年に発表された比較試験では、ローズクォーツと見た目をそろえた偽物を使ってもらったところ、不安が減ったのは石の力を信じる人だけで、本物と偽物に差はありませんでした。
2016年に日本の国石に
日本鉱物科学会は、2016年9月24日の総会で、会員の投票により「ひすい」を日本の国石に選びました。日本で広く知られていて国内で採れる美しい石であること、科学の上で世界的に重要であることが条件でした。候補は花崗岩・輝安鉱・自然金・水晶・ひすいの5つに絞られ、決選投票でひすいが71票、水晶が52票でした。
学会は、ひすいは日本列島のようにプレートが沈み込む冷たい環境でしかできないと考えられ、縄文時代の大珠は人類が初めてひすいを加工したしるしだ、と選んだ理由を説明しています。
縄文のヒスイと、長い空白
新潟県糸魚川市では、約5,000年前の縄文時代中期に、人がヒスイの加工を始めました。世界で最も古いヒスイと人の関わりとされます。糸魚川市の長者ケ原遺跡は、ヒスイの玉や石の斧を作って各地に送り出した拠点で、長さ5センチを超える大珠(たいしゅ)も作られていました。
青森県や北海道、山形県の遺跡からは、糸魚川産と推定されるヒスイの大珠や勾玉が見つかっています。縄文の人々が遠くまでヒスイを運んでいたことが分かります。
ところが、ヒスイは奈良時代以降、日本ではまったく使われなくなり、国内で採れることさえ忘れられました。再び見つかったのは1938年で、伊藤栄蔵さんが糸魚川の小滝川で緑の石を見つけ、翌年に河野義礼さんが調べてヒスイと確かめました。「日本で何千年も大切にされてきた」のではなく、千年以上の空白があったのです。
中国の「玉」
中国では古くから玉(ぎょく)が尊ばれ、天子や諸侯の権威のしるしとされました。漢の時代の中山王・劉勝は、玉を縫い合わせた衣をまとって葬られていました。ただし、古代中国で玉器に使われたのは主に軟玉(ネフライト)です。宝石学研究所によると、ジェダイトがミャンマーから中国に入ったのは1700年代の後半です。
中国では、コウモリは幸福、蝶は長寿、竜は力と繁栄、桃は不老を表す、といった文様をヒスイに彫り、ジェダイトは繁栄や幸運の象徴にもなりました。繁栄の石という見方は、こうした文化の中での意味です。
糸魚川のヒスイを見に行くなら
- 小滝川硬玉産地(1956年指定)と青海川の硬玉産地(1957年指定)は国の天然記念物で、区域内ではヒスイも、ほかの岩石も採取が全面的に禁止されている
- 川の河川区域で石を採るには、量によって許可が必要な場合があるので、事前に相談する(新潟県)
- 海岸で石を探すときは、必要な分だけ拾い、楽しんだら拾った海岸に戻すのがマナー(フォッサマグナミュージアム)
- 富山県朝日町の宮崎漁港から境川までの約4キロは「ヒスイ海岸」と呼ばれ、原石を探す人が訪れる。乾いたヒスイは黒っぽく見え、濡らして日に透かすと見やすい
処理されたヒスイの見分け
ヒスイには、香港で使われ始めた分け方があります。Aは無処理(またはロウを塗っただけ)、Bは酸で漂白して樹脂をしみ込ませたもの、Cは染めたものです。1990年代に漂白と樹脂の処理が広まったときは、見逃した鑑別機関もあり、日本ではジェダイトの売り上げが3か月で半分に落ちたと報じられました。
樹脂を確実に見つけられるのは、赤外分光という専門の分析だけです。光に透かしたり、色の鮮やかさを見たりするだけでは見分けられません。漂白したものはもろく、時間がたつと酸の残りがしみ出したり、色がくすんだりすることがあります。緑に染めた珪岩や大理石、ガラスが模造品に使われた例もあります。高価なものは、処理の有無が書かれた鑑別書のあるものを選んでください。
手入れ
宝石学研究所によると、ヒスイは光には安定していて、日に当てても色はあせません。日光で色があせやすいのは、染めたもの(C)です。割れや欠けにはとても強い一方、温かい酸に侵されることがあり、宝飾用のバーナーの熱で傷みます。処理されている可能性もあるので、洗うなら温かい石けん水か、柔らかい布で拭くのが安全です。
開運ブレスレットのトラブル
国民生活センターは、開運ブレスレットの購入をきっかけに、高額な祈祷や石を次々に売りつける手口に2012年と2014年に注意を呼びかけました。広告が購入者の体験談で効果を信じ込ませていることも、問題として挙げています。困ったときは、消費者ホットライン188に相談できます。
よくある質問
Q. ジェイドにはどんな効果がありますか?
A. 心や体への効果を確かめた研究は見つかりませんでした。名前の由来は「脇腹の痛みの石」で、痛みに効くと信じられた歴史が残っています。
Q. ジェダイトとネフライトはどう違いますか?
A. ジェダイト(硬玉)はひすい輝石の岩石、ネフライト(軟玉)は角閃石の仲間で、まったく別の鉱物です。屈折率で見分けられます。
Q. 翡翠はなぜ日本の国石なのですか?
A. 2016年に日本鉱物科学会が会員投票で選びました。日本の沈み込み帯でできること、縄文時代に世界で初めて加工されたことが理由に挙げられています。
Q. 日本では昔から翡翠が大切にされてきたのですか?
A. 縄文から古墳時代までは使われましたが、奈良時代以降はまったく使われなくなり、1938年に糸魚川で再発見されました。
Q. 直射日光に当てると色があせますか?
A. ヒスイ自体は光に安定しています。染めたものは日光で色があせやすいとされます。
Q. 糸魚川でヒスイを拾ってもいいですか?
A. 天然記念物の区域内は採取が禁止されています。川の河川区域は許可が要る場合があります。海岸では必要な分だけにし、マナーを守ってください。


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