秋の夜にまるい月を眺めながら、中秋の名月にはどんな意味があるのだろう、と考えることがあるかもしれません。占いや開運の話では、名月の夜は一年でいちばん月の力が強い、と説明されることもあります。
ここでは、国立天文台の暦計算室の解説と辞典をもとに、中秋の名月がどう決まるのかを確かめました。名月と満月の日付がずれる理由、2025年から2027年の日付、月見の歴史、すすきと団子、十三夜と片月見の言い伝えまで紹介します。日付のうち、国立天文台がまだ発表していないものは、暦から数えた計算として分けて書き、(計算)と付けます。
中秋の名月は、旧暦8月15日の月

国立天文台によると、中秋の名月は、太陰太陽暦(いわゆる旧暦)の8月15日の夜に見える月のことです。旧暦では7月・8月・9月が秋で、8月15日はそのちょうど真ん中にあたるので「中秋」と呼びます。国立天文台は、陰暦8月全体を指す「仲秋」とは別の言葉なので、「仲秋の名月」とは言わない、と説明しています。
旧暦は、月の満ち欠けで日付を決める暦で、日本では明治5年まで使われていました。今は廃止されていて、国立天文台を含む公的機関は、旧暦の日付を計算も発表もしていません。国立天文台は、自ら発表している二十四節気と新月の日時から、名月に「該当するであろう日付」を案内しています。名月の日付が毎年変わり、太陽暦の9月7日から10月8日までの間を動くのはこのためです。
「名月」という書き方も、昔からのものではありません。精選版日本国語大辞典によると、古くは「明月」と書き、鎌倉時代までは「名月」の表記はほとんど見つからないそうです。
名月と満月は、日付がずれることが多い
もとの記事は、中秋の名月を、太陽と地球と月の位置関係が重なり、一年のなかでも特に月が大きく明るく見える夜、一年で最も月の力が強まる時期、と書いていました。けれども、名月は旧暦の15日の月で、天文学でいう満月(望)とは決め方が違います。満月は、地球から見て月が太陽のちょうど反対側に来る瞬間のことで、名月の日と重なるとは限りません。
国立天文台が発表した、最近の名月と満月の日付は次のとおりです。
- 2025年
名月は10月6日、満月は10月7日12時48分。1日ずれました。 - 2026年
名月は9月25日、満月は9月27日1時49分。2日ずれました。 - 2027年
名月は9月15日、満月は9月16日8時04分。名月の翌朝に満月になります。
国立天文台によると、名月と満月の日付がずれるのはしばしばあることですが、2026年のように2日ずれるのは少し珍しく、前回は2017年、次は2043年です。2025年の時点で、次に名月と満月の日付がそろうのは2030年とされています。ただし2030年の満月は名月の日の朝6時18分で、前の晩に昇った月が沈むころに満月になります。暦の上で日付がそろうということで、名月の夜に満月が見えるという意味ではありません。
なぜ、ずれるのか
旧暦では、新月の瞬間を含む日がその月の1日です。15日は、新月から数えた月齢がちょうど14.0になる時刻を含む日にあたります。一方、新月から満月までは平均すると約14.8日あるので、満月は15日より少し後に来やすくなります。
さらに、新月から満月までの日数は、13.9日から15.6日まで変わります。国立天文台は、満月になりうるのは十四夜から十七夜の月までで、平均すると十五夜の月が満月だ、とまとめています。1600年から2199年までの名月で、いちばん満月が遅れたのは1911年で、名月の2日後の昼に満月になりました。名月の前日に満月になったのは、1942年と2127年だけです。
昔の人も、名月の日付と満月の瞬間を比べていたわけではありません。国立天文台によると、広く使われていた仮名暦には満月の日時が載っておらず、十五夜の月が満月と受け取られていました。
名月は一年でいちばん大きく明るい月か
月は楕円の軌道を回っているので、満月になる位置によって地球からの距離が変わり、見かけの大きさも変わります。国立天文台は、名月にも大きく見える年と小さく見える年があると説明しています。名月だから毎年いちばん大きく見える、というわけではありません。
国立天文台が秋の名月の見どころとして挙げているのは、高さと月の出の時刻です。夏の満月は空の低いところを通り、冬の満月は高く昇ります。秋の満月はその中間の高さで、低いうちは赤やオレンジ、昇るにつれて黄色から白っぽく変わる色の移り変わりや、景色と合わせた眺めを楽しみやすい、という見方です。
月の出は、ふつう1日に平均50分ほど遅れていきますが、名月のころはこの遅れが小さくなります。国立天文台が示した2013年の例では、十五夜から5日後の更待月までの月の出は、秋が17時41分から20時56分、夏は18時59分から22時43分、春は17時14分から22時43分でした。1日あたりにすると、秋は約39分、夏は約45分、春は約66分の遅れです(計算)。秋分のころの満月が、夕方に低いところを通る黄道の上にいるためで、満ち欠けとは関係なく起きる現象です。国立天文台は、秋は月の出を待つのに絶好の季節だ、と書いています。
月見はいつ、どこから
中国では、陰暦8月15日を月を祭る日としてきました。辞典によると、月を眺める習慣は古くからあったものの、中秋の日に固まったのは唐の時代より後で、中秋の名月こそ一年でいちばん美しい月とされました。今も中国では中秋節、韓国では秋夕(チュソク)と呼ぶ大きな行事です。
日本へ伝わった時期は、辞典によって書き方が違います。精選版日本国語大辞典は奈良時代に伝わったとし、百科事典マイペディアや国立天文台は平安時代、9世紀ごろとしています。どれも、まず貴族のあいだで月を眺め、詩歌や管弦を楽しむ宴として行われた、という点では同じです。マイペディアによると、江戸時代には民間でも盛んになり、ススキや秋の草花をいけて、団子や枝豆、サトイモ、クリ、カキなどを供えるようになりました。
国立天文台は、月を直接見るだけでなく、池に映して眺めるなど、景色と合わせた楽しみ方が古くからされてきたと紹介し、京都の桂離宮は月の鑑賞をふまえて設計されたといわれる、と書いています。
民間の月見には、別の顔もあります。精選版日本国語大辞典は、陰暦8月15日は民間では初穂祭で、農耕の行事の意味合いが濃い、と説明しています。世界大百科事典は、日本の名月の祭りは稲とサトイモの祭儀に結びつき、稲作より畑作の儀礼の比重がずっと大きいことが分かってきた、としています。十五夜を芋名月と呼び、もとは芋の収穫を祝う行事だったと考えられていることは、満月に眠くなるときの記事でも紹介しました。十五夜には、九州南部の綱引きのように、綱引きや相撲など、その年の吉凶を占う行事が多いともされます。
すすきと団子、そして「団子盗み」
月見団子について、精選版日本国語大辞典は、8月15日の供え物として里芋と並んで最も広く見られるもので、中国の月餅にならったものといわれる、と説明しています。形は、芋に似たもの、平たいものなど、地方によってさまざまです。
すすきについては、ブリタニカ国際大百科事典が、和歌山県の一部では月見の日に竿の先に稲穂を結んで庭に立て、九州の阿蘇では稲穂を抜いて作物の神に供える例があることを挙げています。そこから、すすきを供えるのも稲穂の代わりとみて、月見を稲の収穫の前の祭りの一種とする考えもある、と紹介しています。
供え物には、ほほえましい言い伝えもあります。日本大百科全書やブリタニカによると、月見の供え物はどこの家のものを取ってもよい、という地方が少なくなく、子どもが家々を回って団子を取っていくことがありました。取られた家は、お月さまが受け取ってくださったといって叱らないならわしで、東京近郊では子どもに取られると縁起がよいと伝えています。長野県では襷で結べるだけ、大阪では前掛けに入るだけなら、畑の作物を取ってもよいとされました。日本大百科全書は、もとはこの夜に訪れる神に受け取られたと考えて喜んだもの、と説明しています。
月の光で運を占う風もありました。沖縄では、8月15夜に小豆をまぶした餅を作り、集落を見渡せる小高い所に登って、月に照らされた家々を眺め、それぞれの家の運を見たといいます。
十三夜と、片月見の言い伝え
国立天文台によると、旧暦9月13日の夜も、中秋の名月に並ぶ名月として月見をしてきました。日本独自の風習で、中秋の名月の「前の月」に対して「後の月」、2つ合わせて「二夜の月」とも呼びます。栗名月、豆名月という呼び名もあり、その理由は、月の形からとする説明と、栗や豆を供えるからとする説明があって、出典によって違います。十三夜という数のことは、エンジェルナンバー1313の記事でも触れました。
十三夜の始まりは、書き方が分かれます。百科事典は、延喜19年(919年)に醍醐天皇の宮中で月の宴が開かれたのが記録の最初とし、国立天文台は、同じ919年の9月13日に宇多法皇(寛平法皇)が催した月見の宴に始まるそうだ、と書いています。精選版日本国語大辞典は、919年の醍醐天皇の月の宴に始まるという説と並べて、宇多法皇がこの夜の月を並ぶもののない美しさだとほめたことによる、という説も挙げています。
なぜ十五夜ではなく十三夜なのかは、はっきりした理由を述べた資料がない、と国立天文台は書いています。『徒然草』は、8月15日と9月13日は二十八宿の婁宿(ろうしゅく)にあたり、この宿は清らかに明るいので月を見るのによい夜だ、としていますが、国立天文台の計算では919年の月の位置と合わず、江戸時代にはすでに信用できない説とされていました。ほかにも、漢詩の「五」を「三」と書き間違えたという説など、さまざまな俗説があります。
十三夜でよく知られた言い伝えが「片月見」です。辞典によると、十五夜の月見だけをして十三夜の月見をしないことを片月見といい、災いが来るといって忌みました。日本大百科全書は、8月の月見をすれば9月の月見も必ずするものだという所があり、東京などでは片月見は災いが来るといって避けた、としています。精選版日本国語大辞典は、江戸の吉原では、十五夜に遊びに来た客が十三夜に来ないことを忌むべきこととした、とも説明しています。赤坂治績さんの『浮世絵で読む、江戸の四季とならわし』のように、片月見の言い伝えは吉原から始まったとする本もあります。
もとの記事は、中秋の名月の夜にやってはいけないこととして、ネガティブな感情や争い事を挙げていましたが、辞典に載っている名月の言い伝えで忌まれていたのは、この片月見でした。十三夜の日付は次のとおりです。
- 2025年
11月2日(国立天文台) - 2026年
10月23日(国立天文台) - 2027年
10月12日(計算)
2027年の十三夜は、国立天文台がまだ発表していないので、国立天文台の暦要項にある新月の日時と二十四節気から数えました。9月30日の新月で始まる月が霜降(10月24日)を含むので旧暦の9月にあたり、その13日目が10月12日です(計算)。同じ数え方で2026年を数えると10月23日になり、国立天文台が発表した日付と一致します。
「収穫の月」とは決め方が違う
もとの記事は、中秋の名月は「収穫の月」とも呼ばれる、と書いていました。国立天文台は、旧暦の2033年問題で名月の日付が一つに決まらない年の案の一つとして、秋分にいちばん近い満月(ハーベストムーン)をとる考え方を挙げ、旧暦の15日で決める名月とは別の決め方として説明しています。旧暦の2033年問題については、大安の記事で紹介しました。
秋分にいちばん近い満月は、2026年が9月27日、2027年が9月16日です(計算)。どちらも名月とは1〜2日違い、決め方の違う別のものです。日本の名月が収穫と結びつくのは、芋名月や豆名月という呼び名や、その年にとれた芋や豆、栗を供える習わしからです。もとの記事は、中秋の名月を暦の大きな節目とも書いていましたが、名月は二十四節気や雑節ではなく、旧暦の8月15日という日付で決まる行事です。
名月の夜に、昔の人がしてきたこと
もとの記事は、名月の夜に、月の光で水晶や水を清め、その水を翌朝飲む、ノートに願いごとを書く、白や銀色の物を身につける、といった過ごし方を勧めていました。東洋の暦では名月の夜は天と地と人がつながる、月の光には浄化の力がある、という説明もありましたが、こうした説明の出典は見つかりませんでした。外に一晩置いた水を飲むことも、ここではお勧めしません。石を月の光に当てる方法の出どころについては、パワーストーンの浄化の記事で書いています。
満月の夜に心や体が変わる、という話については、月と睡眠の研究や、満月の俗説を調べた研究を、満月に眠くなるときの記事にまとめています。
辞典に残る名月の楽しみ方は、月の出を待ち、すすきと団子を供え、景色や池に映る月と合わせて眺め、十五夜と十三夜の両方を見る、というものでした。供え物を子どもが取っていく地方があったように、月見は家族や近所で分け合う秋の行事でもありました。2027年の名月は9月15日、十三夜は10月12日(計算)です。満月は名月の翌朝なので、名月の夜にはほぼまるい月が昇ってきます。
月の満ち欠けと暦の決まり方をもっと知りたいときは、片山真人さんの『知れば知るほど面白い暦の謎』(三笠書房、2022年)があります。版元の紹介によると、著者は刊行時に国立天文台の暦計算室長で、1年や1か月、1週間、閏年の決まり方から、潮の満ち干や日食・月食までを扱った文庫です。2012年の『暦の科学』を改題して、編集し直したものです。
よくある質問
Q. 2027年の中秋の名月はいつですか?
A. 国立天文台の暦では9月15日で、満月は翌16日の朝8時04分です。十三夜は、暦要項の新月と二十四節気から数えると10月12日です(計算)。
Q. 中秋の名月は必ず満月ですか?
A. 違います。名月は旧暦8月15日の月で、2025年は1日、2026年は2日、満月とずれました。国立天文台は、平均すると十五夜の月が満月で、十四夜から十七夜の月までが満月になりうる、としています。
Q. 中秋の名月の夜にしてはいけないことはありますか?
A. 辞典に載っているのは「片月見」の言い伝えです。十五夜の月見だけをして十三夜の月見をしないと災いが来る、といって忌まれました。
Q. 十三夜とは何ですか?
A. 旧暦9月13日の夜の月見で、日本独自の風習です。後の月、栗名月、豆名月とも呼びます。919年の宴に始まるとされますが、主催者は醍醐天皇とする百科事典と、宇多法皇とする国立天文台で書き方が分かれます。
Q. すすきと団子を供えるのはなぜですか?
A. 月見団子は中国の月餅にならったものといわれます。すすきは稲穂の代わりとみて、月見を稲の収穫の前の祭りの一種とする考えもあります。


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