神社へ参ろうと決めていた日に、朝から雨が降っている。雨の日に参拝するのは縁起が悪いのか、日を改めたほうがいいのか、傘は拝殿の前でどうすればいいのかと、迷うことがあります。
ここでは、神社本庁と東京都神社庁、伊勢の神宮の参拝の案内に、雨の日についての説明があるかを確かめました。あわせて、雨の神をまつる京都の貴船神社の記録や辞典の説明から、昔の人が雨をどう祈ってきたかをたどり、雷や大雨のときの身の守り方を気象庁の説明でまとめます。
神社は、雨の日の参拝をどう説明しているか

神社本庁の参拝方法の案内は、手水と、再拝・二拍手・一拝の手順を説明していますが、雨の日の参拝をよいとも悪いとも書いていません。東京都神社庁は、神社についての質問と答えを134問公開していますが、雨の日の参拝や、参拝によい天気を扱う問いはありません。伊勢の神宮の作法の案内も同じで、雨や傘の話は出てきません。
東京都神社庁は、参拝の作法には厳格なきまりはない、とも書いています。雨の日に参拝すると失礼になる、という説明は見当たりません。
もとの記事は、雨は古くから龍神様の加護とされ、雨の日の参拝は穢れを洗い流す浄化の参拝で、神様に呼ばれているサインでもある、と書いていました。けれども、こうした説明は神社の案内にも辞典にも見つかりませんでした。参拝のあとの雨を「清めの雨」と呼ぶ言い方も、出典は確かめられていません。雨の日の参拝は、失礼でもなければ、特別によいしるしでもない、と考えるのが、確かめられる範囲の答えです。
雨を祈った神社、雨を止めてと祈った神社
京都市左京区の貴船神社は、辞典で祈雨・止雨の神と説明される神社です。平安京の水神とされ、都が移ってからは治水の神、雨と晴れを祈る神として崇敬され、818年には大社に列せられました。神社は自らを「貴布禰総本宮」と名乗り、辞典でも全国の貴船神社の総本社とされています。
神社の説明によると、祭神の高龗神(たかおかみのかみ)は、雨を降らせることも止めることもつかさどる龍神です。雲を呼んで雨を降らせ、日を招き、降った雨を地中に蓄えて少しずつ湧き出させる「水源の神」とされます。歴代の朝廷は、ひでりのときには黒い馬を、長雨のときには白い馬か赤い馬を献じて、雨乞いと雨止みを祈りました。
この習わしは、平安時代の法令集『延喜式』(927年)にも書かれています。辞典の引く条文では、雨を祈る祭りは85の神社で行われ、そのうち丹生川上社と貴布禰社には黒毛の馬を1頭ずつ加えます。長雨が止まないときの祭りも同じで、ただし馬は白毛を用いる、と定められていました。
奈良県の丹生川上神社も、辞典の説明では、古くから水の神、雨の神として信仰されてきました。763年から応仁の乱のころまでに、朝廷による雨乞いと雨止みの祈りが約100回記録されていて、平安時代には貴船神社とともに、雨を求めるときは黒い馬、止めてほしいときは白い馬を献じるのが例でした。
稲荷の総本宮である伏見稲荷大社も、古くは朝廷が、雨乞いや雨止みとともに五穀豊穣を願った記録が多い、と説明しています。
- 黒い馬
雨を降らせてほしいとき。ひでりが続いたときに献じた - 白い馬・赤い馬
雨を止めてほしいとき。長雨が続いたときに献じた。延喜式は白毛と定め、貴船神社の説明は白馬または赤馬としている
もとの記事は、雨を天からの恵みとして、よいものの一方向だけで書いていました。たしかに雨は田畑をうるおす恵みですが、長く降り続く雨は、神に祈って止めてもらう災いでもありました。昔の人は、雨を求めるときも、止めてほしいときも祈ったのです。
雨乞いの5つの形と、蓑笠の言い伝え
雨乞いは、日照りが続いたときに、雨が降るよう神仏に祈ることです。祈雨(きう)や請雨(しょうう)ともいい、反対に晴れを祈ることは日乞いと呼ばれます。辞典が挙げる古い例は『日本書紀』で、天武天皇の6年(677年)5月、日照りのため都と畿内で雨乞いをした、という記事です。
日本大百科全書は、日本の雨乞いを、おおよそ次の5つの型に分けています。
- 山の頂で火をたき、鉦や太鼓を鳴らして騒ぐ(5つの中でいちばん広く分布している)
- 歌や踊りで神の心を慰め、雨を願う
- 神社や滝つぼなど、ふだん神聖とされるものの禁忌をわざと犯し、神を怒らせて雨を降らせようとする
- 神社にこもり、夜を通して雨を祈る
- 霊験があるとされる神社や滝つぼの水をもらってきて、田畑にまく
改訂新版 世界大百科事典は、雨乞いに使う水は雨を、煙は雨雲を、鉦の音は雷鳴を表していて、似たものが似たものを生むという考えに基づく、と説明しています。龍神は雨や水をつかさどるとされ、雨乞いはしばしば龍神のすむ池や淵で行われました。
雨乞いの行事には、蓑笠(みのかさ)が使われることもありました。辞典によると、『日本書紀』には、素戔嗚尊(すさのおのみこと)が青草を束ねて蓑笠にした話のあとに、蓑をつけたまま他人の家に入ることを忌む習俗が記されています。蓑笠をつけた者は、この世と異界のあいだにいる者とみなされ、雨乞いや、小正月に神が訪れる行事などで用いられてきました。秋田のナマハゲが、鬼の面にわらの蓑をつけて現れるのも、その一つです。
今の貴船神社では、毎年3月9日に雨乞祭が行われます。神社によると、名前は雨乞いでも、祈るのは晴れと雨の順調、つまり天候が順調で、ほどよい水の恵みがあることです。7月7日には、水の恵みに感謝し、天候の順調を祈る「貴船の水まつり」もあります。
雨の日には、儀式の形を簡単にした
平安時代の朝廷には「雨儀(うぎ)」という言葉がありました。辞典によると、雨の日に朝廷の儀式を略式にすること、またその略式の儀式のことで、宮中の儀式や神事などで行われました。晴れの日の正式な形は「晴儀(せいぎ)」と呼ばれます。947年の貴族の日記には、雨儀のため、ふだん行う礼の一部を省いたという記事が残っています。
これは朝廷の儀式の話で、参拝する人に向けた決まりではありません。ただ、雨の日には形を整えすぎず、無理をしないという考え方が、昔の儀式にもあったことが分かります。神社本庁も、参拝の作法は長い年月の移り変わりを経て今の基本の形になったと説明し、その形の前にある心を知ってほしい、と書いています。
雨の日の拝殿の前で
拝殿での順番は、晴れの日と変わりません。東京都神社庁の説明では、お賽銭を入れたあと、鈴のある神社では鈴を鳴らし、二拝二拍手一拝で拝礼します。明治神宮も、まずお賽銭を捧げてから拝礼する手順を示しています。もとの記事は、鈴を鳴らしてからお賽銭を入れる順に書いていましたが、神社の説明ではお賽銭が先です。手を合わせたときに住所と名前を心の中で伝える、という手順も、神社本庁などの作法の説明には見当たりません。
手水舎で手と口を清める作法も、雨の日だからといって変わりません。手順と、使った水を水盤に戻さない理由は、手水舎の作法の記事にまとめています。
傘の扱いについて、神社本庁や東京都神社庁、神宮、明治神宮の案内に決まりは見つかりませんでした。もとの記事は、傘を開いたまま拝礼するのは帽子をかぶったままお辞儀をするのと似て礼を欠く、と書いていましたが、その出典はありません。屋根の下に入ったら傘をすぼめ、後ろに並ぶ人に滴がかからないよう先を下に向ける、鈴の緒や賽銭箱に傘の先を当てない、といった、まわりへの気配りとして考えれば十分です。
服装について東京都神社庁は、服装はその時々の心の表れともいわれるので、参拝のときはできるだけ服装を整えるよう勧めています。社殿の中で特別に参拝するときは、男性はスーツにネクタイ、女性もそれに準じた服装を求められることがあります。ふだんの参拝で、雨具や長靴を控えるようにという説明は見当たりません。
御朱印は、神社本庁によると、参拝した証としていただくものです。起源は、奈良・平安のころ社寺に経典を納めたときの受取の書付ではないかといわれ、「御朱印」という呼び名は昭和10年ごろから見られます。受付の時間は神社ごとに違い、明治神宮は午前9時から閉門まで(日によって受付の場所が変わることがあります)、貴船神社の授与所は午前9時から午後5時までです。雨の日は、御朱印帳を濡れない袋に入れて持ち歩くと安心です。
雷が鳴ったら、大きな木の下に入らない
雨の日に、いちばん気をつけたいのが雷です。気象庁は、雷鳴が聞こえるなど雷雲が近づく様子があるときは、落雷が差し迫っていると説明しています。神社の境内には、鎮守の森やご神木のような高い木が多く、雨宿りのつもりで木の下に入りたくなりますが、気象庁は、高い木の近くは危険だとしています。気象庁が挙げる身の守り方は、次のとおりです。
- 鉄筋コンクリートの建物、自動車(屋根のない車は除く)、バス、列車の中は比較的安全。木造の建物の中も基本的に安全で、電気器具や天井・壁から1メートル以上離れればさらに安全
- 近くに安全な建物がないときは、電柱など高い物のてっぺんを45度以上の角度で見上げる範囲で、その物から4メートル以上離れた所に退避する
- 高い木からは、幹・枝・葉のどこからも、最低でも2メートル以上離れる
- 姿勢を低くして、持ち物を体より高く突き出さない
- 雷がやんで20分以上たってから、安全な場所へ移る
傘を高く掲げたまま、開けた参道を歩き続けるのは避けてください。雷鳴が聞こえたら参拝を切り上げ、入れる建物や車の中に移りましょう。
大雨の日の、山の神社と川沿いの神社
気象庁は、急な斜面や渓流の近く、川や海岸に近い低い土地に、大雨などの激しい現象が加わると、土砂災害や川の氾濫が起き、命に危険が及ぶと説明しています。神社の中には、山の中腹や渓流沿いに鎮まるところもあります。
水の神をまつる貴船神社も、貴船川をさかのぼった山あいの神社です。神社によると、創建の地である奥宮が洪水で流されたため、1055年に今の場所へ本宮を移しました。大雨の予報が出ている日に、山の中や川沿いの神社へ出かけるのは控え、日を改めるほうが安全です。
雷鳴が聞こえるときや、大雨の情報が出ているときは、参拝を延ばしてください。出かける前に、気象庁の注意報・警報や、住んでいる自治体の避難の情報を確かめると安心です。
濡れた石段と、持ち物
雨に濡れた石段や石畳、木の板の回廊は滑りやすくなります。神社の石段での転倒を数えた統計は見つかりませんでしたが、ころぶ事故そのものは身近です。東京消防庁の管内で、交通事故を除く日常生活の事故により救急搬送された65歳以上の人を見ると、令和2年から6年の5年間、事故のときの動作は「ころぶ」が8割以上(その他・不明を除く)を占めました。令和6年には73,500人がころんで救急搬送され、およそ4割は入院の必要な中等症以上でした。これは東京の高齢者の日常の事故全体の数字で、雨の日に限ったものではありません。
国民生活センターも、雨の日の入り口は床が濡れて滑りやすいこと、年齢が上がるほど足元の思わぬ変化への対応が遅れがちになることを注意しています。境内では走らず、手すりのある石段では手すりを使ってください。
- 底が滑りにくい靴(石段や石畳、濡れた板の上でも滑りにくいもの)
- 傘(人の多い参道では、すれ違うときに傘を傾ける)
- 手や顔をふく小さなタオル
- 御朱印帳やお守りを入れる、濡れない袋
- お賽銭の小銭(傘を持ったまま財布を探さなくてすむ)
雨の日の参拝の受け止め方
雨の日に参ったからといって、神さまに呼ばれたしるしだと考える根拠は見当たりませんし、縁起が悪いという説明もありません。昔の人は、雨が足りなければ雨を、降り続けば晴れを祈りました。雨は、ありがたいものでも、困ったものでもあったのです。
雨音の中で境内を歩くのは、晴れの日とは違った落ち着きがあります。ただ、雷や大雨のときは参拝を延ばし、足元に気をつけて、まわりの人に滴がかからないように過ごしてください。
神社の参拝の基本を一通り確かめたいときは、神社本庁が監修した入門書『神社のいろは』(扶桑社、2012年)があります。神社本庁のよくある質問でも、神社の基礎知識がまとめられた本として挙げられています。
よくある質問
Q. 雨の日に神社へ参拝してもいいですか?
A. かまいません。神社本庁や東京都神社庁、神宮の参拝の案内に、雨の日の参拝を避けるよう求める説明はありません。雷や大雨のときは、安全のために日を改めてください。
Q. 雨の日の参拝は縁起がいいのですか?
A. 雨を「清めの雨」や神さまに呼ばれたしるしとする説明は、出典が見つかりませんでした。昔の朝廷は、貴船神社などで雨乞いと並んで、長雨を止める祈りも重ねていました。
Q. 傘は拝殿の前でどうすればいいですか?
A. 神社の案内に決まりは見当たりません。屋根の下で傘をすぼめ、後ろの人に滴がかからないよう先を下に向け、鈴の緒や賽銭箱に当てないよう気をつければ十分です。
Q. 参拝中に雷が鳴ったらどうすればいいですか?
A. 大きな木やご神木の下で雨宿りをせず、建物や車の中に移ってください。気象庁は、高い木の幹・枝・葉から2メートル以上離れ、雷がやんで20分以上たってから動くよう説明しています。
Q. 雨の日でも御朱印はいただけますか?
A. 雨の日は受け付けない、という説明は見当たりません。受付の時間は神社ごとに違い、明治神宮は午前9時から閉門まで、貴船神社の授与所は午前9時から午後5時までです。御朱印帳は濡れない袋に入れて持っていきましょう。


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