ワンドは、タロットの小アルカナ56枚を作る4つの組の一つで、エースから10までの数の札10枚と、ペイジ、ナイト、クイーン、キングの人物の札4枚の、14枚でできています。意味を調べると、火、情熱、行動、仕事といった言葉が並びますが、その読み方がどこから来たのかまで書いた説明は多くありません。
ここでは、いまの入門書の多くが絵のもとにしているライダー版を作ったアーサー・エドワード・ウェイトが、1910年に初版を出した解説書(著作権の切れた原文)を読み、ワンドの14枚に彼がどんな意味を付けていたかを確かめました。あわせて、マルセイユ版の棒の描き方、トランプの組としての歴史、ワンドが「火の組」と呼ばれるようになったいきさつを見ていきます。札の意味は長く使われてきた読み方の一つで、先のことを言い当てるものではありません。78枚全体の組み立てはタロットカード意味一覧の記事に、ライダー版の成り立ちと絵を描いたパメラ・コールマン・スミスのことはライダー版タロットの記事にまとめています。
「ワンド」は、もとはトランプの「棒」の組

タロットは、15世紀の北イタリアで、棒・金貨・杯・剣の4つの組をもつトランプに、切り札を足して生まれたカードです。ワンドの組のもとは、この「棒」の組で、イタリアのトランプでは「バストーニ」、スペインでは「バストス」、フランスでは「バトン」と呼ばれます。どれも棒やこん棒のことです。占いの世界では、この組をふつう「ワンド」と呼び、ロッド(棒)やスタッフ(杖)と呼ぶ本もあります。ウェイトの解説書は、ワンドとセプター(王の杖)の二つの呼び名を並べて書いています。
もとの記事は、ワンドの語源は杖で、魔法使いが手にするような細い棒を思い浮かべるとよい、と書いていましたが、札に描かれているのは細い杖ではありません。ウェイトは、ワンドのエースの絵を、雲から出た手が太い棒かこん棒を握っている、と説明しています。ウェイトも属していた黄金の夜明け団の、タロットの札を説明した内部文書も、同じ札の手が「重いこん棒」を握っていると書いています。ライダー版の棒について、ウェイトは、この組の棒はいつも葉が付いている、生命と活気の組だからだ、とも書いています。
棒の組がどこから来たかには、説があります。中東のマムルーク朝のカードでは、剣は三日月刀、棒はポロの打球槌を表していた、という説明があり、さらにさかのぼって、中国のカードの、銭を紐に通した組をポロの棒と取り違えたのが始まりではないか、とも考えられています。どちらも確かめきれない部分のある説です。
日本にも、この棒の組は伝わっています。室町時代の終わりに、ポルトガルの船員や商人が持ち込んだカードをもとに作られた「天正かるた」(48枚)は、棍棒、刀剣、金貨、聖杯の4つの紋で、棍棒の紋は「パウ」(パオ)と呼ばれ、漢字では「波宇」などと書かれました。刀剣はイス、金貨はオウル、聖杯はコップです。のちのうんすんカルタや株札にも、この棒の組が残っています。ワンドとうんすんカルタの棒は、同じ先祖をもつ組です。
マルセイユ版とライダー版で、棒の描き方はこれだけ違う
同じワンドの組でも、どの版のタロットを手にするかで、見た目はまったく変わります。
- マルセイユ版の数の札
棒は、まっすぐな線の記号で描かれます。数が多くなると棒どうしが交差して格子の形になり、奇数の札では格子の真ん中を1本の棒が縦に通ります。10では、2本の棒がはっきりと描き込まれます。剣の組は曲線で描かれるので、直線か曲線かで棒と剣を見分けます。場面の絵はありません。 - ライダー版の数の札
ウェイトは、自分が直したこのタロットでは、エースを除くすべての数の札に人物や場面の絵を付けた、と書いています。ワンドの2なら、城壁の上で地球儀を持って海と陸を見渡す男、10なら、10本の棒の重さに押しつぶされそうな男、というように、絵から意味を思い出せます。 - 棒そのもの
ウェイトは、ライダー版のこの組の棒はいつも葉が付いている、と書いています。ただの道具の棒ではなく、生きた木の枝として、この組を「生命と活気の組」として表した、という説明です。
マルセイユ版の数の札の読み方はマルセイユ版タロットの記事で紹介しています。絵のない版で練習するときは、まず棒の本数と並び方に目を慣らすと、ワンドの札を見分けやすくなります。
「ワンドは火」は、だれが決めたのか
もとの記事は、ワンドは火、カップは水、ソードは風、ペンタクルは地と結びつく、火は古くからエネルギーや情熱の象徴として扱われてきた、と書いていました。けれども、4つの組と4つの元素の組み合わせは、トランプの組が生まれたときからあったものではありません。確かめられたのは、19世紀の終わりごろから、タロットを占いと神秘思想に使った人たちの本や文書に出てくる対応で、流派によって違います。
- パピュス(フランスの神秘思想家)
1892年にロンドンで出た英訳の『ボヘミアンのタロット』で、セプター(ワンド)を火、カップを水に当てたうえで、ソードを土、ペンタクルを風としています。ワンドが火なのは同じでも、ソードとペンタクルは今よく見る組み合わせと逆です。 - 黄金の夜明け団
タロットの札を説明した内部文書では、ワンドのエースに「火の力の根」、カップのエースに「水の力の根」、ソードのエースに「風の力の根」、ペンタクルのエースに「地の力の根」という見出しを付けています。今の解説でよく見る組み合わせは、この文書と同じ並びです。 - クロウリー
神秘思想家のアレイスター・クロウリーは、1944年の『トートの書』で、ワンドの組を意志の働きと火の元素に結びつけました。 - ウェイト
1910年の解説書には、4つの組と元素を並べた対応表はなく、ワンドを火と書いた箇所も見当たりません。カップのキングの説明では、杯の印は当然水を指す、と書き、ペンタクルの五芒星は人の中の四元素の対応を表す、と書いています。元素の考え方は持っていても、ワンドと火を結びつける書き方はしていない、ということです。
トランプの組との対応も、書き手で違います。今の解説の表では、ワンドはトランプのクラブに当てられることが多いのですが、ウェイトは、仮にそう考えるなら、と断ったうえで、ワンドは今のトランプの「ダイヤ」の前身で、ソードがクラブに当たる、と書いていました。騎士の武器である剣と、農民の持つ棒が釣り合う、という説明です。
ワンドを火と結びつけて、情熱や行動の札として読むのは、今のタロットで広く使われている読み方なので、使ってかまいません。ただ、それは19世紀の終わりからの一つの流派の決まりで、古くから決まっていたものではない、と知っておくと、元素の対応が違う本に出会ったときに戸惑わずにすみます。
ウェイトの原典で読む、ワンドの14枚
ウェイトは解説書の第3部で、ワンドの14枚について、絵の説明と、占いでの意味、逆位置(絵が逆さまに出たとき)の意味を書いています。要点をまとめると次のとおりです。
- エース
雲から出た手が太い棒を握る絵。創造、発明、事業、物事の始まりと源、誕生、家系。別の説では、お金や財産、相続。逆位置は没落や破滅、曇った喜び。 - 2
城壁の上の男が地球儀を持ち、海と陸を見渡す絵。「富と栄華」と「体の苦しみや病、悲しみ」の二つの読みがあり、ウェイトはこの二つは両立しない、と書いています。逆位置は驚き、魅惑、恐れ。 - 3
崖の端から、海を行く船を見る人物。確立した力、事業、努力、商い、発見、仕事での有能な協力。逆位置は苦労の終わり。 - 4
4本の棒に花輪がかかり、花束を掲げる二人と古い屋敷が見える絵。田園の暮らし、避難所、収穫祭、安らぎ、調和、繁栄、平和。逆位置でも意味は変わらず、繁栄や幸福のままです。 - 5
棒を振り回す若者たち。遊びとも争いともつかない模擬戦。模倣、富を求める激しい競争。一説では、お金や利益。逆位置は訴訟、争い、ごまかし。 - 6
月桂冠を付けた騎手。勝者の凱旋、王の使者が運ぶような大きな知らせ、望みがかなうこと。逆位置は不安、裏切り、いつまでも続く遅れ。 - 7
高い岩場で棒を振る若者に、下から6本の棒が向かう絵。勇気、議論、商売の駆け引きや競争、そして成功。逆位置は当惑や不安、優柔不断への戒め。 - 8
開けた土地の上を飛ぶ8本の棒。事業の活発さ、急ぎの使いのような速さ、大きな望み、恋の矢。逆位置は嫉妬の矢、内輪もめ、夫婦げんか。 - 9
棒にもたれて敵を待つ人物と、柵のように並ぶ8本の棒。抵抗する力、攻められても大胆に迎え撃つこと。あわせて遅れや延期。逆位置は障害や逆境。 - 10
10本の棒の重さに押しつぶされる男。読み方が多くて調和しない、と前置きしたうえで、主な意味は「圧迫」そのもの。成功や利益が重荷になること、見せかけや裏切りも。逆位置は困難や陰謀。 - ペイジ
知らせを告げる若者。誠実な若者、恋人、使者、郵便配達人、家族の知らせ。逆位置は悪い知らせ、優柔不断。 - ナイト
旅の途中の騎士。馬の動きが、せっかちな気質を表すとしたうえで、意味は出発、不在、逃走、移住、転居。逆位置は決裂、中断、不和。 - クイーン
田舎の女性、友好的、貞節、愛情深い、名誉を重んじる人。お金への愛や、商売の成功も。逆位置は善良で倹約家、並びによっては嫉妬や不貞。 - キング
花の咲く棒を掲げ、玉座の背には獅子。田舎の男性、たいてい既婚で、正直で良心的な人。思いがけない遺産の知らせも。逆位置は善良だが厳格。
もとの記事が挙げていた読み方と比べると、違いの目立つ札があります。もとの記事は、ナイトを突き進む情熱と衝動的な行動力、10を重荷を背負いすぎた状態やゴール前のもう一踏ん張り、と書いていましたが、ウェイトはナイトに出発や移住、転居という具体的な意味を、10に「圧迫」と、成功そのものが重くなるという意味を付けています。また、もとの記事は逆位置を、エネルギーが滞っている、空回りしている状態とまとめていましたが、ウェイトは札ごとに別の意味を付けていて、ワンドの4は逆位置でも意味が変わりません。
同じ本の中でも、意味は食い違っている
ウェイトの解説書を読み進めると、同じ本の中で、ワンドの札の意味が食い違っているところがあります。
一つは、第3部の「小アルカナの追加の意味」です。ここでウェイトは、ワンドのエースに「あらゆる種類の災難」(逆位置は誕生のしるし)、4に「思いがけない幸運」、ナイトに「悪い札」という意味を挙げています。エースは、先の一覧では創造や始まりの札でした。ウェイト自身、この追加の意味は、前に挙げた意味とよく食い違う、どの意味も並びの中の位置で弱まったり強まったり、ほとんど逆になったりする、と断っています。
もう一つは、人物の札の見た目です。先の一覧の節でウェイトは、ワンドのキングを「髪や肌の色が濃い男性」、クイーンを「色の濃い女性」、ナイトとペイジを「色の濃い若者」としています。ところが、同じ本のケルト十字の節では、ワンドの人物の札はとても色の白い人、つまり金髪か赤褐色の髪で、白い肌、青い目の人を表す、と書いています。ケルト十字の節には、髪や目の色より、その人の気質で選び直してよい、という但し書きも付いています。
ケルト十字の節では、占う人を表す札(シグニフィケーター)の選び方も決めています。40歳以上の男性ならナイト、40歳未満の男性ならキング、40歳を超える女性ならクイーン、それより若い女性ならペイジです。ナイトの方を、キングより年上の男性に当てているわけです。並べ方そのものはユニバーサル・ウェイト・タロットの記事で紹介しています。
こうした食い違いが生まれたのは、ウェイトが意味を一人で考えたのではなく、それまでの占いの本など「あらゆる出どころ」から集めてまとめたからです。ウェイトは、小アルカナの意味は占いの言葉を超えるものにはなっていない、と書く一方で、ライダー版の絵は、思いがけない部屋に通じる扉のようなもので、直観の助けになる、とも書いています。決まった一つの意味を覚えるより、絵を見て、そのときの問いに合う読みを選ぶ余地を残した本だと言えます。
ワンドで練習するときに、ウェイトの本から借りられること
もとの記事が勧めていた、ワンドの14枚だけを抜き出して1枚ずつ引く練習は、絵のあるライダー版なら始めやすい方法です。そのうえで、ウェイトの本には、占い方についての短い覚え書きが載っています。ウェイトは、これは自分の領分ではないと断って、別の人が寄せたものとして紹介しています。
- 始める前に、問いをはっきり決めて、声に出して言う
- カードを切っている間は、できるだけ頭を空にする
- 自分の好みや、こうなってほしいという思い込みをできるだけ外す。そうしないと判断が染まってしまう
- だから、自分や友人を占うより、知らない人を占うほうが正しく読みやすい
もとの記事は、同じ質問を何度も繰り返すと読み取りが混乱する、新しいカードはシャッフルを繰り返して自分のエネルギーをなじませる、と書いていましたが、どちらも出典は示していませんでした。ウェイトの本にあるのは、ケルト十字で最後の札がはっきりしないとき、その10枚目を新しいシグニフィケーターにして、カードを切り直して並べ直し、先の成り行きをくわしく見る、という手順です。同じ問いを引き直すのとは別の、続きを見るための方法です。逆位置の札を作るには、最初にカードを切るとき何枚かの向きを逆にする、という方法も書かれています。
札の意味の本を読むときは、どの版のどの流派の読み方かを確かめると、ワンドの札が本によって違うことに振り回されにくくなります。ワンドを火の組として読む今の入門書の読み方と、ウェイトの原典の読み方を並べてみると、一枚の札にいくつもの読みが重なってきたことが分かります。
ウェイトの解説書を日本語で読むなら、中村心護さんが訳と解説を付けた『ピクトリアル・キー・トゥ・タロット ライダー版の原書と解説』(2025年)があります。目次によると、第三部に小アルカナの4つのスート(ワンド、カップ、ソード、ペンタクル)の節と、「小アルカナの追加的意味」「古代ケルトの占い方」の節があり、この記事で紹介したワンドの意味や食い違いを、原典の流れのまま確かめられます。同じ原書の訳には、シビル・オカダさんの訳の『タロット公式テキストブック』(2009年)もあります。
よくある質問
Q. タロットのワンドは、何を表す組ですか?
A. 小アルカナの4つの組の一つで、もとはイタリアのトランプの「棒」の組です。今の入門書では、火、やる気、行動、仕事を表す組として読まれることが多いです。
Q. ワンドは、なぜ火の組なのですか?
A. 19世紀の終わりに、タロットを占いと神秘思想に使った流派が決めた対応です。パピュスはワンドを火としましたが、ソードを土、ペンタクルを風としていて、組み合わせは流派で違います。
Q. ワンドのナイトは、どんな意味ですか?
A. ライダー版を作ったウェイトの解説書では、出発、不在、逃走、移住、転居です。逆位置は決裂、中断、不和です。
Q. ワンドの逆位置は、いつも悪い意味ですか?
A. いいえ。ウェイトは札ごとに別の意味を付けていて、ワンドの4は逆位置でも、繁栄や幸福という意味が変わりません。
Q. マルセイユ版とライダー版で、ワンドの読み方は違いますか?
A. マルセイユ版の数の札には場面の絵がなく、棒の本数と並び方で読みます。ライダー版は数の札に絵があり、ウェイトの意味と絵を合わせて読めます。


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