暑くも寒くもないのに、ふいに背中がぞくっとする。考えごとをしていたときや、ある場所に入ったときだと、何かのサインではないかと気になるものです。
ここでは、「ぞっと」や「虫の知らせ」といった言葉の本来の意味を辞典で確かめ、体が冷えていないのに寒いときに考えたい体の仕組みを紹介します。感動でぞくっとするとき、幽霊が出るといわれる場所で寒く感じるときの研究、受診の目安もまとめます。
「ぞっと」は、恐怖にも感動にも使われてきた

辞典によると、「寒気(さむけ)」には、寒さのほかに、熱や恐怖、嫌な気持ちのために不愉快な寒さを感じることという意味があり、これを悪寒ともいいます。「ぞっと」は、寒さや恐怖、強い感動で体が震え上がるさまです。日本国語大辞典は、恐怖の意味の例を室町時代の終わりの御伽草子から、美しいものに出会ったときの感動の意味の例を1675年の俳諧から挙げています。感動して「ぞっとする」という言い方は、300年以上前からあったことになります。
一方で、「背筋が寒くなる」は激しい恐怖などで背中の中心がぞっとすること、「身の毛がよだつ」「総毛立つ」は恐怖や寒さで体の毛が逆立つことで、辞典には感動の意味は載っていません。同じぞくっとする感覚でも、言葉によって、恐怖の側に寄っているものと、感動にも使えるものがあります。
もとの記事は「虫の知らせ」の虫を「霊的な何か」と説明していました。辞典では、虫の知らせは、よくないことが起こりそうだと感じることです(1781年の洒落本に例があります)。この「虫」は、人の体の中にいて意識や気持ちを左右すると考えられていたもので、「腹の虫」と同じです。体の中の虫の言い伝えには、道教の三尸(さんし)の虫もあります。虫を霊とする説明は、辞典には見当たりませんでした。
体が冷えていないのに寒いのは、悪寒の特徴
もとの記事は、エアコンも効いておらず体も冷えていないのに感じる寒気を、サインの話として書いていました。けれども、これは発熱の始まりに起こる悪寒の特徴そのものです。
百科事典によると、感染などで体温を調節する目標が上がると、皮膚の血管が縮み、鳥肌が立ち、体が震えて熱をつくります。このときの寒さは、皮膚が冷えているからではなく、脳の調節によって起こるものです。顔が青白くなり体が震えるものを悪寒戦慄といい、体温が目標に届くと寒気は消えます。急な熱で救急外来に来た526人の研究では、震えるほどの寒気があった人は、寒気のなかった人に比べて、血液に細菌が入っている危険が12.1倍でした。
強い不安とともに寒気が急に出ることもあります。パニック発作の診断の目安には、動悸や汗、震え、息苦しさなどと並んで「冷感または熱感」が入っています。ただし、13の症状のうち4つ以上が突然出て10分以内に強くなるものを指すので、寒気が一つあるだけで当てはめるものではありません。
寒気のあとに熱が出る、震えが止まらない、頭痛や首のこわばり、息苦しさがある、受け答えがおかしいといったときは、早めに医療機関を受診してください。救急車を呼ぶか迷ったときは、救急安心センターの #7119 で医師や看護師などに相談できます(実施していない地域や、別の番号の地域もあります)。
感動でぞくっとするとき
もとの記事は、感動したときの寒気を「真実の寒気」と呼び、魂が本物だと反応しているサインとしていましたが、この呼び名の出どころは見つかりませんでした。
音楽を聴く83人に体の反応を尋ねた1991年の調査では、8割を超える人が背筋のぞくぞくや涙などを経験していました。ぞくぞくは、新しい和音や予想していなかった和音が出てくる箇所で起きやすく、研究者は、聴き手の予想が当たったり外れたりすることで心が動く、という説明を支持しました。若い大人188人を調べた2011年の研究では、芸術にふれてぞくっとすることが多いのは、新しい経験に開かれた性格の人や、芸術の経験が深い人のほうでした。
日本の心理学の展望論文(2014年)は、こうした感動のぞくぞくを、寒さや身を守るための鳥肌とは別のものとして、研究の流れを整理しています。感動でぞくっとするのは、予想を超えるものに心が動いたしるしと考えると、自分が何に惹かれるのかを知る手がかりになります。
「出る」といわれる場所で寒くなるのはなぜか
もとの記事は、古い建物などで感じる寒気を、その場所の霊的な存在の影響としていました。これを確かめようとした研究があります。イギリスのハンプトン・コート宮殿とエディンバラの地下室で、参加者に歩いてもらい、ふしぎな体験をした場所を記録してもらった2003年の研究では、幽霊が出ると評判の場所ほど報告が多く、報告の場所は磁場のばらつきや明るさと関係していました。研究者は、ふつうの環境への反応で説明できる部分があるとしています。
同じ宮殿で678人を調べた研究では、幽霊を信じる人ほどふしぎな体験を多く報告し、幽霊のせいにしやすい傾向がありました。20年分の66の研究をまとめた2020年の総説によると、幽霊が出る場所の話でいちばん多く語られる温度の異常は、その場だけ冷たく感じる「コールドスポット」で、その冷たさは恐怖の表れかもしれないという指摘があります。ただ、温度と体験の数に関係がなかった研究もあれば、評判の家のほうが寒かったという研究もあり、総説は、環境だけで説明するのは今のところ難しいと結論しています。
1998年には、19ヘルツ前後の聞こえない低い音が目を震わせ、幽霊の体験につながるという説が出ましたが、同じ地下室を2006年に測った研究は裏づけになりませんでした。79人に部屋で50分ずつ過ごしてもらい、低い音や電磁場のあるなしを変えた2009年の実験では、多くの人がふしぎな感覚を報告したものの、その数は条件によって変わらず、研究者は暗示の受けやすさがいちばん簡単な説明だとしました。
もとの記事の歴史と、塩風呂の注意
もとの記事は、体全体で霊を感じる「クレアセンティエンス」が19世紀から語られてきた、チベット仏教やヒンドゥー教でも寒気がクンダリーニの目覚めの一つとして語られる、と書いていましたが、出典は見つかりませんでした。辞典によると、死者との交信を中心にした近代のスピリチュアリズムは1848年のアメリカのフォックス姉妹から始まったとされ、クンダリニーは、ハタ・ヨーガやタントラで会陰のあたりに蛇の姿で宿るとされる力で、寒気についての記述はありません。
もとの記事は、不安な寒気を感じたら塩を入れたお風呂で浄化を、と勧め、よくある質問では塩の浄化を「有効」としていました。給湯器のメーカーには、塩分を含む入浴剤は故障の原因になるので使わないよう案内しているところや、追いだきや保温のときは控えるよう案内しているところがあります。熱の出始めの寒気なら、入浴よりも体温を測ることが先です。
ぞくっとしたときに
急に寒気がしたら、まず熱を測り、服や部屋の温度を見直してください。熱がなく、感動した場面や怖い話のあとだったなら、心が大きく動いたしるしかもしれません。何に心が動いたのかを書き留めておくと、自分の好きなものや苦手なものを知る手がかりになります。直感をテーマにした本には、上地一美さんの『なぜかうまくいく人のすごい直感力』(学研プラス、2022年)などがあります。
よくある質問
Q. 寒くないのに突然ぞくっとするのはなぜですか?
A. 熱の出始めの悪寒は、皮膚が冷えていなくても、脳が体温の目標を上げることで起こります。まず熱を測ってください。
Q. 感動してぞくっとするのは特別なサインですか?
A. 音楽では予想していなかった和音の箇所で起きやすく、感じやすさは性格によって違うという研究があります。霊的なサインと確かめた研究は見つかりませんでした。
Q. 古い建物や「出る」といわれる場所で寒く感じるのはなぜですか?
A. 評判や暗示、暗さ、恐怖が関わるという研究があります。ただし温度との関係は研究によって結果が分かれ、環境だけでは説明しきれていません。
Q. 「虫の知らせ」の虫は霊のことですか?
A. 辞典では、人の体の中にいて意識や気持ちを左右すると考えられていたもので、「腹の虫」と同じです。
Q. どんな寒気なら受診したほうがいいですか?
A. 熱が出る、震えが止まらない、頭痛や首のこわばり、息苦しさ、受け答えがおかしいときは早めに受診してください。迷ったら #7119 に相談できます。


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