何年も会っていない友人や昔の先生、別れた恋人のことが、ふと頭に浮かぶ。思い出そうとしたわけでもないのに浮かんでくると、どうして今あの人を、と気になります。スピリチュアルの解説では、相手もこちらを思っているしるしだ、再会の前兆だ、と説明されることがあります。
ここでは、思い出そうとしていないのに浮かぶ記憶を調べた心理学の研究を読み、どのくらいの頻度で、どんなきっかけで起きるのかを確かめます。においや音楽で昔がよみがえる研究、年をとると思い出しやすい年代の偏り、写真サービスの「思い出」の機能も見ていきます。最後に、「懐かしい」という言葉の古い意味や「噂をすれば影」などの言い回しを辞典で引き、「懐かしい人に会う前兆」と言われることに答えます。
思い出そうとしなくても、記憶は一日に何度も浮かぶ

心理学では、思い出そうとしていないのに浮かんでくる自分の経験の記憶を、不随意の自伝的記憶と呼んで研究しています。デンマークの研究者ベルンツェンが1996年に発表した日記の研究では、14人が、ふと浮かんだ記憶を1日2件まで、合わせて50件記録しました。あわせて、ふつうの日にどのくらい浮かぶかを本人に見積もってもらうと、1日2回より多いという答えばかりで、いちばん多い答えは5〜6回でした(答えの幅は3〜20回)。
これは少人数が自分で見積もった数で、実際に数えた回数ではありません。また、浮かぶのは出来事の記憶で、そのすべてが特定の人の記憶というわけでもありません。それでも、年にすれば千回単位の出来事の記憶が、思い出そうとせずに浮かんでいる計算になります。
2011年の研究では、デンマークの大学生48人が、手で押すカウンターを1日持ち歩き、浮かんだ記憶を数えました。思い出そうとせずに浮かんだ記憶は、思い出そうとして思い出した記憶の3倍ありました。浮かびやすかったのは、ぼんやりしているとき、退屈なとき、特に理由のないときで、思い出そうとして思い出すのは、問題を解くときや人に話すときが多かった、と報告されています(1日だけ、学生だけを調べた研究です)。
15歳から90歳を超える人まで、二つのグループの合わせて約2,000人に尋ねた2009年の研究では、同じ出来事について、ふと浮かぶ回数と、思い出そうとして思い出す回数は同じくらいでした。どちらの回数も、その出来事でどれだけ強く気持ちが動いたか、その出来事が自分の人生の中でどれだけ中心にあるかで予測できました。大切だった人、強く気持ちが動いた相手ほど、ふと思い出しやすいということです。
もとの記事は、懐かしい人を突然思い出したとき、その人もあなたのことを思っている、相手からの念が届いているサインだ、と書いていましたが、思い出すこと自体は、ごく日常的な記憶のはたらきです。思っている相手の考えが届くかどうかを調べた実験では、別のチームの追試で偶然と差が出ませんでした(実験の中身は急に連絡が来るときの記事で紹介しています)。
それでも、ふと浮かんだことに意味を感じてしまうのには理由があります。ベルンツェンの2021年の総説は、人は意図せず浮かんだ考えのほうに、意図して考えたことより大きな意味を感じやすい、という研究を紹介しています。また2004年の研究では、ふと浮かぶ記憶は、言葉をきっかけに思い出した記憶より、特定の一回の出来事であることが多く、体の反応や気分への影響が大きく、ふだんと違う出来事も多いことが分かっています。いいことばかりが浮かぶわけでもありません。
思い出したきっかけは、たいてい身の回りにある
ふと浮かぶ記憶にも、たいていきっかけがあります。2021年の総説によると、日記の研究では大多数の記憶にきっかけが見つかり、物、場所、人、感覚、そのときしていることといった外のきっかけのほうが、考えや気持ちといった内のきっかけより多く報告されています。状況が似ている、といった形のないつながりがきっかけになることもあります。
浮かぶ記憶は最近の出来事が多く、時間がたつほど減っていきます。年をとっても、ふと浮かぶ記憶ははっきりとは減らない、とも書かれています。何年も会っていない人を思い出したときは、直前に次のようなことがなかったか、振り返ってみてください。
- その人と同じ名字や名前を、ニュースや看板、名簿で見た
- 似た顔、似た声、似た話し方の人とすれ違った
- 一緒に過ごした季節や行事(入学、卒業、夏休み、年末)が近づいている
- 一緒に行った場所の近くを通った、その土地の名前を聞いた
- 当時よく聞いた曲が流れた、同じにおいがした
- 古い写真や手紙、卒業アルバムが目に入った
- いまの自分が、その人と過ごしたころと似た立場や悩みにある
きっかけを書き留めておくと、偶然の一致に見えていたものが、身の回りの出来事でつながっていると分かることがあります。同じ名前をよく目にするときの確かめ方は同じ名前をよく見るときの記事、同じ人に何度も出会うときは同じ人に何度も会うときの記事でまとめています。
写真サービスと交流サイトの「思い出」
いまは、機械のほうから昔を見せてくれることもあります。グーグルフォトのヘルプ(アンドロイド版の表示)によると、写真と動画を自動で整理して「思い出」として見せる機能があり、日付をもとにした「日時に基づく思い出」と、テーマをもとにした「テーマに基づく思い出」があります。新しい思い出が見られるようになると通知を受け取れ、通知は種類ごとに切ることができます。
見たくない人やペットは、「顔を非表示にする」の設定で、一部だけ表示するか、表示しないかを選べます。期間を指定して隠す設定もあります。ただしヘルプ自身が、顔の非表示はすべての写真で完全に働くとは限らない、と書いています。別れた相手や亡くなった人の写真が急に出てきてつらいときは、通知と表示の設定を見直してみてください。
交流サイトも、昔の知り合いとふたたびつながるきっかけになっています。総務省の『平成23年版 情報通信白書』(2011年)では、ソーシャルメディアの利用者に、使って得られたことを尋ねると、「疎遠になっていた人と再び交流するようになった」が39.4%でした。利用者の回答で、国民全体の数字ではなく、調査も古いものです。
相手の側にも同じ通知が届き、同じ写真が表示されていれば、二人が同じころに相手を思い出すのは不思議ではありません。思い出していた人から連絡が来るときの現実のきっかけは、急に連絡が来るときの記事にまとめています。
においと音楽で、昔がよみがえる
フランスの作家プルーストの長編小説『失われた時を求めて』(1913〜1927年刊)では、主人公が、思い出そうとせずに過去がよみがえる体験をします。においで昔を思い出すことを、この小説にちなんで「プルースト効果」と呼ぶことがありますが、小説の有名な場面のきっかけは、紅茶に浸したマドレーヌの味です。
においと記憶の研究をまとめた2000年の論文は、においがほかの感覚より昔の経験をよく思い出させる、ということには、少なくとも予備的な証拠がある、と結論しています。2002年の実験では、同じ手がかりをにおいで出したときのほうが、写真や言葉で出したときより、思い出の感情が強く、その場に引き戻される感じも強い傾向がありました。
ただ、2004年の実験では、たき火、刈りたての芝、ポップコーンを、におい、写真、音で示したところ、においで思い出した出来事は感情が強かったものの、鮮明さや具体性には差がありませんでした。においで思い出したことが、特に正確というわけではありません。
高齢者93人を調べた2006年の研究では、においで思い出した出来事は10歳までのものがいちばん多く、言葉や写真で思い出した出来事は11〜20歳が山でした。においの思い出は、引き戻される感じが強く、それまで思い返したことの少ないものでした。子どものころの友達を、においでふと思い出すことがあるのは、この性質と合っています。
音楽も強いきっかけです。流行歌の一部を聞いてもらった2007年の研究では、平均で3割の曲で自分の思い出が浮かびました。曲の大半はよい感情を強く呼び起こし、懐かしさは3番目に多い感情でした。18〜34歳の39人と60〜77歳の39人が、4日ずつ2回、日記をつけた2023年の研究では、音楽は食べ物より多くの思い出を呼び起こし、意図せず浮かんだものの割合が高く、本人にとって大事な思い出が多く含まれていました。思い出の数と、意図せず浮かんだ割合は、若い人と年長の人で差がありませんでした。
年をとると、10代から20代のころを多く思い出す
高齢の人に昔の出来事を思い出してもらうと、10歳から30歳ごろの出来事が、いちばん数が多く、鮮明で、大事なものとして出てきます。1998年の論文は、好きな映画や音楽、本もこの時期のものが多い、とまとめています。思い出の数がこの年代で盛り上がることは、レミニセンス・バンプ(思い出の山)と呼ばれます。
アメリカとオランダの11〜70歳、約2,000人がインターネットで答えた2005年の研究では、手がかりの言葉で思い出した出来事の年齢に、どの年代にも山があり、山は男性で15〜18歳、女性で13〜14歳でした。日本の研究者による2013年の研究では、21〜69歳の76人を調べ、感情を表す言葉や感情を引き起こす言葉で思い出した出来事の山は、中立の言葉で思い出した出来事の山より、後ろの年齢にありました。
20〜93歳の1,241人に尋ねた2002年の研究では、年長の人のいちばん大事な思い出と、いちばん幸せな思い出には20代の山がありましたが、いちばん悲しい思い出、いちばんつらい思い出には山がありませんでした。最近ふと浮かんだ思い出は、幸せなものが不幸なものの2倍以上あり、20代の山は幸せな思い出にだけ見られました。
懐かしく思い出す人に、学生時代の友人や若いころの恋人が多いのは、こうした記憶の偏りで説明できます。懐かしさがどんな気持ちで、何をもたらすかの研究は、同級生の夢の記事で紹介しています。
「懐かしい人に会う前兆」と言われること
辞典によると、「懐かしい」は動詞の「なつく」から生まれた言葉で、古くは、身近に置きたい、馴れ親しみたい、という意味でした。過ぎた日の思い出に心がひかれる、という今の意味が生まれたのは中世以後で、早い例は16世紀半ばの謡曲『羽衣』の本に見えます。もとは、そばにいたい相手に向ける言葉だったのです。
人のことを話していると本人が来る、という言い回しには「噂をすれば影」があります。江戸時代の『浮世床』(1813〜1823年)に例があり、ことわざの辞典は、いまは不思議に思いながらも偶然と考えるのがふつうだが、かつては、その場にいない人のことを言うと、ことばの不思議な力が働くと半ば信じられていた、と解説しています。英語、中国語、朝鮮語にも同じ型のことわざがあります。
「虫の知らせ」という言葉もよく持ち出されますが、辞典の第一の意味は、なんとなく良くないことが起こりそうな気がすること、です。予感一般や第六感の意味で使われることもありますが、もともと、うれしい再会を告げる言葉として載っているわけではありません。
思い出した人に実際に会う回数を数えた研究は、見つかりませんでした。ただ、ここまでに見たように、出来事の記憶は一日に何度も浮かび、浮かびやすいのは最近見聞きしたことや大切な人のことです。思い出した人に、その後たまたま会う、連絡が来る、ということが、ときどき起きても不思議ではありません。会わなかった日のほうはすぐに忘れてしまう、という記憶のくせは、偶然会う人の記事や、急に連絡が来るときの記事で詳しく書いています。
もとの記事の「縁」「カルマ」「共時性」の説明
- 縁
もとの記事は、人と人の出会いは過去生での関わりによる縁で、ある人を思い出すのは、その縁が今も活きているサインだ、と書いていました。辞典の「縁」の中心の意味は、原因を外から助ける間接の原因や、めぐりあわせです。「前世からの縁」という言い方は用例にありますが、前世の関わりが、ある人を今思い出す理由になる、という説明は辞典にありません。 - カルマ
もとの記事は、解決されていない感情のエネルギーをカルマと呼び、解消されるまで繰り返し意識に浮かぶ、と書いていました。カルマ(業)の原義は「行為」で、前世の行いの報いという意味も辞典にありますが、感情のエネルギーという説明はありません。繰り返し浮かぶ記憶は、研究では、気持ちが動いた強さと、人生の中での大切さで説明されています(言葉の意味はカルマの記事で)。 - 共時性
もとの記事は、ふと思い出した人から連絡が来るのは、ユングの共時性の一例だ、と書いていました。共時性は、原因と結果のつながりが見つからないのに意味を感じる一致を指す言葉で、思いが通じた証拠という意味ではありません(両思いの前兆の記事で紹介しています)。 - 心霊研究
もとの記事は、19世紀後半の心霊研究のなかで、遠くの人を強く想うと何かが届く、という考えが広まった、と書いていましたが、出典が示されておらず、確かめられませんでした。
つらい相手ばかり思い出すとき
もとの記事は、思い出すたびに胸が痛むのは、感情を手放して魂を軽くする機会が来ているのかもしれない、と書いていました。けれども、怖い出来事やつらい出来事の場面が、自分の意思と関係なく何度もよみがえる場合は、研究では別の扱いになります。ベルンツェンの総説は、トラウマのあとに繰り返し浮かぶ記憶を、ふだんは役に立っている、ふと浮かぶ記憶のうち、うまく働かなくなった一部と見るべきだ、と提案しています。
つらい場面が何度もよみがえる、その人を思い出すと動悸や息苦しさが出る、眠れない日が続く、仕事や家事が手につかないといったときは、心療内科や精神科に相談してください。電話では、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)に相談できます(受付の時間は都道府県ごとに違います)。
思い出した人に連絡したくなったら
思い出したことを、連絡をとるきっかけにするのは自然なことです。ただ、相手の暮らしも変わっています。連絡するなら、次のような順番にすると、相手にも自分にも負担が少なくなります。
- まず、共通の知り合いや交流サイトで、相手の近況がそれとなく分かるか見てみる
- 最初の連絡は短くし、思い出したきっかけ(写真が出てきた、曲を聞いた)を一言そえる
- 返事を急かさない。返事がなければ、それも一つの答えとして受け取る
- 別れた恋人や、関係を断った相手には、相手が連絡を望んでいるかを先に考える
連絡しないで、思い出したことを日記に書き留めるだけでもかまいません。懐かしい思い出を思い浮かべると、人とのつながりの感覚が高まったという研究がある一方、もともと懐かしさを感じにくい人では、懐かしい思い出の振り返りを続けると幸福感が下がった、という研究もあります。気が進まないときは、無理に振り返らなくてよいのです。
懐かしさを心理学がどう調べてきたかを読みたいときは、日本心理学会が監修し、楠見孝さんが編んだ『なつかしさの心理学 思い出と感情』(誠信書房、2014年)があります。目次には、なつかしさを感じる理由、なつかしいものが記憶に残るしくみと好きになる理由、消費者行動の研究から見たノスタルジア、臨床への応用、なつかしい記憶とそうならない記憶、といった章が並んでいます。
よくある質問
Q. 懐かしい人を急に思い出すのは、相手も自分を思っているからですか?
A. そう確かめられたことはありません。思い出そうとせずに浮かぶ記憶は、1日に何度もあると見積もられていて、多くは身の回りにきっかけがあります。相手の考えが届くかを調べた実験は、別のチームの追試で偶然と差が出ませんでした。
Q. 思い出した人に会うのは、前兆ですか?
A. 思い出した人に会う回数を調べた研究は見つかりませんでした。記憶は一日に何度も浮かび、浮かびやすいのは最近見聞きした人や大切な人なので、思い出したあとにたまたま会うことがあっても不思議ではありません。
Q. においで昔のことを思い出すのはなぜですか?
A. においで思い出した出来事は、写真や言葉で思い出した出来事より感情が強く、子どものころのものが多いという研究があります。ただし、鮮明さや正確さが特に高いわけではありません。
Q. 年をとると、若いころのことばかり思い出すのはなぜですか?
A. 高齢の人では、10歳から30歳ごろの出来事が、いちばん多く、鮮明で、大事な思い出として出てきます。幸せな思い出では、とくに20代の山がはっきりしています。
Q. つらい相手ばかり思い出してしまいます。
A. つらい場面が何度もよみがえる、眠れない、生活に差し支えるといったときは、心療内科や精神科、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)に相談してください。


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