願いが叶う直前には前兆がある。気持ちが軽くなる、偶然の一致が続く、必要な人や情報がやってくる。そんなサインを探して、毎日を見直している人もいるでしょう。
ここでは、「前兆」がどのように見つかるのかを心理学の研究から確かめます。前兆の説明によく出てくる脳の「網様体」の本当の働き、体調の変化を前兆と言われたときの注意、願いに近づくために研究で裏づけのある方法もまとめます。
前兆は、叶ったあとに見つかりやすい

結果を知ったあとで「最初から分かっていた」と感じる心の働きを、心理学では後知恵バイアスと呼びます。2012年に研究をまとめた論文によると、結果が分かったあとは、分かる前よりもそれが予測できたように思えてしまいます。いま正しいと分かっていることに合う情報を選んで思い出し、話の筋をつけ、世界を秩序立ったものとして見たい、という気持ちが関わっていると説明されています。
願いが叶うと、それより前の出来事の中から「あれが前兆だった」と思えるものが見つかります。叶わなかったときは、同じような出来事があっても前兆として思い出されません。この論文は、ほかの説明がありえなかったかを考えるよう促すと、このかたよりが小さくなるとしています。
「サイン日記」は思い込みを強めることも
もとの記事は、毎日の良い出来事や偶然の一致を「これは前兆かもしれない」と肯定的に解釈して書き留めるよう勧めていました。信じたいことを支える情報ばかり集め、合わない情報を軽く見る傾向は「確証バイアス」と呼ばれます。前兆を探す目で書く日記は、この傾向をそのまま強める手順になります。
日記をつけるなら、前兆探しではなく、その日にしたことと、うまくいかなかったことも書いてみてください。あとで読み返したときに、何が役に立ったのかを確かめやすくなります。
思いどおりにならないとき、人はパターンを見やすい?
2008年の6つの実験では、状況を自分でコントロールできないと感じさせられた人は、雑音の画像の中に形を見たり、関係のない情報の間につながりを見たり、迷信をつくったりしやすくなりました。願いが叶わず不安なときほど、前兆を見つけやすくなるのかもしれません。
ただし、2018年に同じような操作で7つの実験をした研究者たちは、こうした効果を見つけられませんでした。これまでの研究をまとめ直すと、効果が出た研究ほど発表されやすいかたよりが強く、効果は比較的小さいと考えられています。結論はまだ出ていません。
「網様体賦活系」の本当の働き
もとの記事は、潜在意識がアンテナになって願いに関係する情報を拾う「網様体賦活系」の働きだ、と脳科学の裏づけがあるように書いていました。辞典によると、網様体には呼吸や血圧の中枢があり、目覚めや注意力、意識を保つことに関わる部分です。上行性網様体賦活系は、1949年にマグーンとモルッツィが見つけた仕組みで、目覚めの水準を保つ働きとして説明されています。願いに関係する情報を選んで拾う、という説明は辞典にはありませんでした。
気にかけているものが目に入りやすくなることは、注意の研究でよく知られています。ただ、それは前兆が増えたのではなく、自分の見方が変わったということです。
「顕在意識と潜在意識」について
もとの記事は、人の意識は顕在意識と潜在意識に分かれる、というのを心理学の説として書いていました。精神分析のフロイトは、早い時期に潜在意識という言葉を使ったことがありましたが、のちに使わなくなりました。初めのころの説も、意識・前意識・無意識の三つに分けるものです。
体調の変化を「好転反応」と言われたら
願いが叶う前や運気が上がる前に、眠気やだるさ、頭痛が出るのは「好転反応」だ、と説明されることがあります。消費者庁は2014年、健康食品や化粧品、エステなどで体調を崩した人に、事業者が「好転反応」「毒素が抜けているところ」と言って使い続けさせる例について注意を呼びかけました。
- 2009年4月から2014年10月までに339件の情報が寄せられ、そのうち100件は、使い続けて症状が続いたり悪くなったりしていた
- 健康食品120件、化粧品76件、健康器具66件、エステ47件などで、知人からの勧めや無料の体験会のあとに買った例が多かった
- 「好転反応」という言葉は、日本医学会が監修する医学用語辞典に載っていない
国民生活センターも2023年に、体調がよくなる途中で不調が出るような現象は「科学的には存在しません」と書き、体調に異変を感じたらすぐに使うのをやめるよう呼びかけています。
体調の変化を願いの前兆と考えて、我慢しないでください。商品やサービスを使って具合が悪くなったら、いったんやめて医師に相談し、契約のことは消費者ホットライン188に相談してください。
研究で裏づけのある方法
前兆を待つより、目標をはっきり決めるほうが行動は変わりやすいようです。目標を決めることの効果を調べた141の比較試験(合わせて1万6,523人)をまとめた2017年の分析では、効果は小さいもののはっきりとプラスでした。目標が難しいとき、人前で決めたとき、仲間と共通の目標にしたときに、効果が大きくなっていました。「何をいつするか」まで決めておくと、さらに行動に移しやすくなります。
不安や怒りは押し込めない
もとの記事の「ネガティブな感情を否定しない」という勧めには、研究の裏づけがあります。1987年の実験では、「白いクマのことを考えないで」と言われた人は考えを抑えきれず、あとで考えてよいと言われると、かえって白いクマのことを多く考えました。
2003年の5つの研究では、出来事のとらえ方を変えて感情に対処する人は前向きな感情が多く、感情を表に出さないよう抑える人は前向きな感情が少ないのに、つらい感情は多くなっていました。2007年の脳の研究では、感じている気持ちを言葉にすると、つらい画像への脳の反応が弱まりました。不安を「内側のブロック」として消そうとするより、紙に書いたり人に話したりして、言葉にするほうがよさそうです。
前兆とのつきあい方
偶然の一致や心の軽さを「よい流れが来ている」と受け止めて、明るい気持ちで過ごすのは悪いことではありません。ただ、前兆は後から見つかりやすく、探すほど見つかるものです。前兆があったかどうかより、何をいつするかを決めて、小さな行動を続けることが、願いに近づく確かな道です。
例として、精神分析や森田療法、瞑想などの120項目で、臨床心理学とスピリチュアリティのつながりを解説した入門書『スピリチュアル心理学入門』(石川勇一、春風社、2009年)の販売ページです。願いを叶える方法を説く本ではありません。出版社では品切れとされています。
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よくある質問
Q. 願いが叶う前兆はありますか?
A. 前兆があることを確かめた研究は見つかりませんでした。叶ったあとに「最初から分かっていた」と感じる後知恵バイアスで、前兆は後から見つかりやすいことが分かっています。
Q. 網様体賦活系が願いに関係する情報を拾うのですか?
A. 辞典では、網様体は目覚めや意識を保つことに関わる脳の仕組みで、願いの情報を選ぶ働きは書かれていません。
Q. 眠気やだるさは好転反応ですか?
A. 国民生活センターは、好転反応と呼ばれるような現象は科学的には存在しないとしています。体調の変化が続くときは医療機関に相談してください。
Q. シンクロニシティが増えるのは前兆ですか?
A. シンクロニシティはユングが唱えた「意味のある偶然の一致」の考えで、願いが叶うサインとする定義はありません。
Q. 前兆を感じたのにうまくいかないのはなぜですか?
A. 前兆と結果につながりがあるとは確かめられていません。何をいつするかを決めて行動するほうが、研究の裏づけがあります。
Q. 不安になると願いは叶わないのですか?
A. そうした研究は見つかりませんでした。不安は抑え込むより、言葉にするほうが和らぎやすいことが分かっています。



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