人の気持ちを感じすぎて疲れてしまう。映画を見ると涙が止まらない。その場の空気がすぐに分かってしまう。そんな自分の感受性の強さに、何かスピリチュアルな意味があるのではないか、と気になって調べる人もいるでしょう。スピリチュアルの解説では、感受性の強い人は目に見えないエネルギーを受け取る魂を持っている、と説明されることがあります。
ここでは、まず辞典で「感受性」という言葉の意味を確かめ、心理学で「とても敏感な人(HSP)」がどのように測られ、何が分かっているのかを、元の論文でたどります。不安や落ち込みとの重なり、病名ではないこと、スピリチュアリティとの関係を調べた研究、疲れやすさが続くときの相談先もまとめます。
辞典の「感受性」には、二つの意味がある

デジタル大辞泉は、感受性の意味を二つ挙げています。一つは、外からの刺激や印象を感じ取ることができる心の働きで、「感受性の強い人」という用例が添えられています。もう一つは病気にかかりやすいことで、たとえば、はしかや風疹の免疫がないために、うつると発症しやすい状態をいう医学の言葉です。
精選版日本国語大辞典によると、この言葉は1881年の訳語集『哲学字彙』に載っていて、文章での最初の例として挙げられているのは、1908年の夏目漱石『三四郎』です。主人公の三四郎が、自分の感受性は人一倍鈍いのではないかと疑い始める場面です。
世界大百科事典は、感受性を、色や形、音、匂いを豊かに感じ取る「認知的感受性」と、快さや苦しさの感情を受け入れる「情動的感受性」の二つに分けています。感じる心の働きは、長いあいだ理性の敵のように見られてきたけれども、今では大きな哲学の問題になっている、とも書いています。
もとの記事は、感受性が強いとは、目に見えないエネルギーや波動、他人の感情や思念を敏感に受け取ることができる魂の特質だ、と説明していましたが、辞典にあるのは、外からの刺激を感じ取る心の働き、という意味です。魂の特質という説明は、辞典にも、次に紹介する心理学の研究にも出てきません。
「とても敏感な人(HSP)」は、1997年の論文から
とても敏感な人を指すHSPという言葉は、アメリカの心理学者エレイン・アーロンさんから広まりました。1996年に一般向けの本を出し、翌1997年に夫のアーサー・アーロンさんと学術論文を発表しています。本の日本語版は、2000年に講談社から『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』(冨田香里訳)として出て、2020年には『敏感すぎる私の活かし方』(片桐恵理子訳、パンローリング)として改題・改訳されています。
1997年の論文は、7つの研究をまとめたものです。日本の研究者の紹介によると、39人への面接、無作為に選んだ299人への電話調査、アメリカ各地の大学生計1,004人への5つの質問紙調査が行われました。そこから「感覚処理感受性」という一つの性質を取り出し、それを測る27項目の質問紙を作っています。
感覚処理感受性の高い人は、ささいな刺激に気づきやすく、刺激が多すぎると疲れやすく、新しい物事には経験と照らし合わせてから動く傾向がある、と説明されています。論文の結論は、この性質が、人づきあいの内向性や、感情の揺れやすさ(情動性)とは「部分的に」別のものだ、というものでした。完全に別のものだとまでは言っていません。また、とても敏感な人の中には、つらい子ども時代と関わる小さな群と、敏感さ以外はそうでない人と変わらない大きな群がある、とも報告しています。
その後、この質問紙が本当に一つの性質を測っているのかについても、研究が続きました。アメリカの大学生297人の調査では二つ、カナダの大学生851人の調査では三つのまとまりに分かれた、という結果が出ています。
日本語版の質問紙で分かったこと
日本語版の質問紙は、髙橋亜希さんが2016年の論文で作りました。まず大学生324人に27項目の日本語版を答えてもらい、次に374人(有効な回答は369人)の答えから、うまく働かない8項目を除いて、19項目にまとめました。
19項目は三つのまとまりに分かれました。音や光、においなどに気づきやすい「低い感覚の閾値」、刺激で気持ちが高ぶりやすい「興奮しやすさ」、芸術や自然に心を動かされる「美的な感受性」です。三つとも、女性の得点が男性より高くなっていました。
性格の質問紙との関係も調べられています。合計の得点は、性格の5因子の質問紙の情緒不安定性と0.58、アイゼンクの性格検査の神経症傾向と0.60の相関がありました(それぞれの質問紙にも答えた216人、153人での値)。前の二つのまとまりは神経症傾向と中くらいの相関がありましたが、美的な感受性のまとまりは、神経症傾向とほとんど関係がありませんでした。
もとの記事は、美しいものや芸術に深く感動するのは、魂が高い波動と共鳴できるしるしだ、と説明していました。研究では、この感じやすさは、質問紙の一つのまとまりとして、本人の答えで測られているものです。
何割の人が「とても敏感」なのか
1997年の論文は、感覚処理感受性の高い人を約15%としていました。ところが、大人906人の回答を統計的に分けた2018年の研究では、高い群が31%、中くらいの群が40%、低い群が29%の三つに分かれました。研究者らは、敏感さはなだらかに分布する性質で、人はその上で三つのまとまりに分かれる、としています。高い群は、神経症傾向が高く、外向性が低く、楽しい気分を引き起こす実験での感情の反応も大きいという特徴がありました。
同じ研究者らの2024年の論文は、より敏感な人を人口の25〜30%としています。何%という数字は、測り方と区切り方で変わります。どこかで線を引いて、この人はそう、この人はそうでない、とはっきり決められるものではありません。
不安や落ち込みとの重なりと、病名ではないこと
研究が進むにつれて、敏感さの質問紙と、性格の「神経症傾向」(不安や落ち込みを感じやすい傾向)との重なりが議論されてきました。2019年のメタ分析(複数の研究をまとめた分析)では、8本の論文・6,790人のデータで、大人の敏感さと神経症傾向の相関は0.40、開放性とは0.14で、外向性・協調性・誠実性とは関係がありませんでした。19本・5,326人のデータでは、大人の敏感さは否定的な気分とだけ0.34の相関がありました。
千葉大学の研究者らが2026年に発表した調査では、20代から40代の2,593人に、日本語版の質問紙などに答えてもらいました。敏感さの得点が高い群は、神経症傾向の高い群と同じように、抑うつや不安、発達の特性の傾向、トラウマのストレス、子ども時代のつらい経験の得点が高くなっていました。また高い群では、敏感な人であることを自分らしさの一部だと答える人の割合が高くなっていました。
この論文は、HSPは科学的に確立したものでも精神医学の診断名でもなく、アメリカ精神医学会の診断の手引きにも載っていない、と書いています。論文自身が挙げる限界は、回答者が調査会社の登録者で無作為に選ばれていないこと、診断は本人の申告であること、20代から40代に限られること、性別を二択で尋ねたこと、平均からの幅で三つの群に分けたこと、ほかの要因をまとめて調整する分析をしていないこと、の6つです。
アーロンさん本人のサイトも、サイトにある自己テストは、病気を診断するものでも、病気でないと決めるものでもない、と明記しています。不安障害との関係については、敏感さが病気と取り違えられること、病気が敏感さと取り違えられること、両方があること、の三つがありうるとしています。そして、生活や成長に差し支える不安なら、診断がつくかどうかにかかわらず取り組むべきで、認知行動療法の専門家に相談するのはよい出発点だ、と書いています。
もとの記事は、HSPという考え方がスピリチュアルの世界でも受け入れられ、感受性の強さを肯定的にとらえるきっかけになった、と書いていました。前向きにとらえること自体は悪くありません。けれども、とても敏感な人という考えは、エネルギーや他人の思念を受け取る魂の特質を裏づけるものではありません。本人が答える質問紙で測る気質で、不安や落ち込みと重なる部分がある、というのが研究の示していることです。
疲れやすさや気分の落ち込み、不安、眠れない状態が続く、仕事や家のことに差し支える、というときは、敏感な気質だからと決めつけずに、心療内科や精神科、かかりつけの医師に相談してください。電話なら、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556、受付時間は都道府県ごとに違います)があり、働く人は「こころの耳」の電話相談(0120-565-455)も使えます。
生まれつきか、育ちか
思春期の双子2,868人を調べた2021年の研究では、敏感さの個人差のうち47%が遺伝で説明されました。悪い経験への敏感さと、よい環境への敏感さは、遺伝の影響が比較的別々だったといいます。神経症傾向や外向性との重なりは、主に共通の遺伝の影響で説明されました。
2019年に出た批判的な総説は、敏感さは、悪い環境ではストレスに関わる問題の危険を高める一方、支えのある環境ではより大きな恩恵を受ける、とまとめています。同時に、もっと信頼できる客観的な測り方と、ほかの性格の特性と区別するための理解が必要だ、と課題も挙げています。傷つきやすさとよさは同じ性質の裏表で、まわりの環境で表れ方が変わる、という見方です。
「人の気持ちが分かる」のは、エネルギーなのか
もとの記事は、怒っている人の近くにいると気分が悪くなるのは、他人のエネルギーを自分のものとして受け取っているからだ、と書いていました。
ベルギーの大学の研究者らが127人で行った2026年の実験では、表情が出始めたごく最初の部分だけを見せて、喜び・恐れ・怒りを当ててもらいました。敏感さの質問紙の得点が高い人ほど、三つの感情のどれも正しく当てやすく、神経症傾向の影響を除いても結果は変わりませんでした。まだ1本の研究ですが、人の気持ちに気づきやすいことには、表情など目に見える手がかりへの敏感さで説明できる面がある、ということです。
相手の気分がこちらにうつる「情動伝染」も、相手の表情や声、姿勢を思わずまねることで起きると説明されていて、その効果は小さいものです。詳しくはエネルギーが強い人の記事でまとめています。
特徴の一覧に当てはまっても
もとの記事は、他人や場のエネルギーを吸収しやすい、月や季節のリズムと同調しやすい、直感が豊か、芸術に深く感動する、といった特徴を挙げ、自分に当てはまるか確かめてみるよう勧めていました。こうした一覧は、だれでも少しは心当たりのある書き方になっていて、読むと当てはまる気がするものです。オーラが見える人の記事でも、同じような特徴の一覧に裏づけがないことを確かめました。
研究で使う質問紙も、本人が自分で答えるものです。得点が高いことは、本人がそう感じていることを表していて、特別な力があることを示すものではありません。直感はハイヤーセルフや守護霊からのメッセージだという説明、感受性の強い人は芸術家やヒーラーに多いという説明も、出典は見つかりませんでした。
スピリチュアリティとの関係を調べた研究
とても敏感な人とスピリチュアルな考え方との関係は、日本でも調べられています。関西大学の串崎真志さんが2019年の日本心理学会で発表した研究では、大学生126人に、敏感さの短い質問紙、エンパスの質問紙、刺激を求める傾向の質問紙、人生の意味を考える傾向、いのちの永遠性を思う傾向(自己超越)を答えてもらいました。
女性では、敏感さの得点が高い人ほど、人生の意味を考え、いのちの永遠性を思う傾向がありました。男性では、相手を見るだけで気持ちが分かるという型の感じ方(情動直感)が、同じ二つと関連していました。一度の質問紙で関連を見た学会発表で、敏感さが原因で考え方が変わる、と示したものではありません。
この発表が引く海外の研究では、48人が、光や音を遮った水槽に浮かんで45分過ごしました。敏感さの高い群のほうが、神秘体験や意識の変化を強く感じた一方、到着した時点でのストレスや不安も高かった、と報告されています。
アーロンさん自身も、瞑想の方法と悟りを客観的に見渡すという趣旨の本を英語で出していて、本人のサイトは、とても敏感な人は内面の安らぎを求める歩みに引かれやすい、と紹介しています。一方、日本でとても敏感な人を研究している飯村周平さんの本には、「魂のレベルが高いという誤解」という節があります。研究者のあいだでは、心の安らぎを求めることと、魂が特別だという見方とは、分けて考えられているのです。
エンパス、イタコ、満月の話を確かめる
- エンパス
もとの記事は、他人の感情やエネルギーを直接受け取る能力をもつ人、と説明していました。上の研究で使われたエンパスの質問紙は、アメリカの精神科医ジュディス・オルロフさんの2017年の本の記述をもとに作られたものです。気疲れしやすい、相手の気持ちを知らないうちに取り込む、相手を見るだけで分かる、の三つを、本人がどう感じるかで尋ねるもので、能力を確かめるものではありません。 - イタコ
もとの記事は、イタコを、高い感受性をもって神霊のメッセージを受け取る存在としていました。辞典によると、イタコは東北地方北部で死者の口寄せをする巫女で、多くは盲目の女性です。少女のころに師匠を決めて弟子入りし、経文や祈祷、占いを習い、儀式で自分を守る神仏を得てから独立します。修行で身につける職能として説明されています。 - クレアセンティエンス
もとの記事は、19世紀の神智学の流れの中で広まった概念だと書いていましたが、その出どころは見つかりませんでした。 - 満月や新月に眠れない
月と睡眠の研究では、差が出たものでも満月の前に寝つきが遅れたというもので、大人数の調査では差が見られませんでした。
月と睡眠の研究は、満月に眠くなるときの記事で詳しく紹介しています。
疲れやすいときに、できること
もとの記事は、裸足で土の上を歩くアーシング、塩風呂、ホワイトセージを焚くこと、赤・茶・黒の服を身につけることを勧めていましたが、効き目を確かめた研究は見つかりませんでした。取り入れるなら、塩風呂はお湯41度以下・10分までを目安に、ホワイトセージを焚くなら換気をして、裸足で土に触れるときは傷から破傷風になることがあると知っておいてください。
研究から言えるのは、もっと地味なことです。人と会って外向的にふるまうと、性格にかかわらず数時間後に疲れが出ます。自分で選んで一人になる時間は、高ぶった気持ちを静める助けになります。刺激の多い予定のあとに休む時間をあらかじめとっておく、といった工夫は、敏感さを魂の話にしなくてもできることです。
敏感さは、悪い環境では傷つきやすい代わりに、支えのある環境ではよく伸びる、という研究があることも知っておいてよいでしょう。自分を変えようとするより、自分にとって過ごしやすい環境を選び、整えていくほうが、敏感さとのつきあい方としては研究に沿っています。
研究にもとづいて、とても敏感な人についての誤解を一つずつ解いた本に、飯村周平さんの『HSPの心理学』(金子書房、2022年)があります。目次には、診断テストにまつわる誤解、魂のレベルが高いという誤解、精神疾患や発達障害の過敏性との関連、生きづらさで日常生活に支障が出るとき、といった節が並んでいます。
よくある質問
Q. 感受性が強いことに、スピリチュアルな意味はありますか?
A. 辞典にある意味は、外からの刺激や印象を感じ取る心の働きです。心理学では、とても敏感な人(HSP)として質問紙で測られていますが、エネルギーや他人の思念を受け取る力を確かめた研究はありません。
Q. HSPは病気ですか?
A. 病名ではありません。2026年の日本の論文は、科学的に確立したものでも精神医学の診断名でもない、としています。ただ、神経症傾向や、不安・抑うつの得点と重なる部分があります。
Q. とても敏感な人は、どれくらいいるのですか?
A. 1997年の論文は約15%、大人906人を三つの群に分けた2018年の研究は31%、2024年の論文は25〜30%としています。測り方と区切り方で数字が変わります。
Q. 人の気持ちが分かりすぎるのは、なぜですか?
A. 2026年の127人の実験では、敏感さの得点が高い人ほど、表情の出始めから感情を正しく当てやすくなっていました。表情など目に見える手がかりへの敏感さで説明できる面があります。
Q. 疲れやすさが続くときは、どうすればいいですか?
A. 気質のせいと決めつけずに、心療内科や精神科、かかりつけの医師に相談してください。こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)でも相談できます。


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