ビジョンボードは、なりたい自分や手に入れたいものの写真、心に響く言葉をボードに貼り、毎日目に入る所に飾るものです。作ってみたいけれど、何をどう貼ればよいのか、眺めるだけで本当に何かが変わるのか、と迷う人もいるでしょう。
ここでは、まず心理学の研究に沿った作り方を7つの手順で示します。そのうえで、叶った姿を思い描く方法を実際に確かめた実験と、その後に研究をまとめた分析、願いと障害を並べて考える方法、写真を貼っておくと行動が変わるかをめぐる論争、そしてビジョンボードがどこから来たのかを、図書の目録や本の本文で確かめた結果をまとめます。先に書いておくと、ビジョンボードを作った人と作らない人を比べた試験は、探した範囲では見つかりませんでした。
研究に沿ったビジョンボードの作り方(7つの手順)

用意するものは、コルクボードか厚紙、雑誌の切り抜きや印刷した写真、はさみ、のり、ペンです。紙を使わず、スマートフォンの待ち受け画面に作ってもかまいません。手順は次のとおりです。
- ① 願いは三つまでに絞る
あれもこれも貼ると、どれに向かって動くのかがぼやけます。願いと障害を順に考える方法(ウープ)でも、願いは一つずつ取り上げて考えます。 - ② 貼る前に「実現しそうか」を考える
願いと今の現実を並べて考えてもらった実験では、実現しそうだと思える願いほど取り組みが強くなり、見込みの低い願いでは取り組みが弱くなりました。見込みのある願いを真ん中に、遠い夢は端に小さく、と分けておくと迷いません。 - ③ 叶った姿の写真に、途中の場面を添える
合格した自分、住みたい部屋といった写真の横に、机で勉強している場面、走っている場面など、そこへ向かう途中の写真や言葉を貼ります。叶った姿だけを思い描いた学生は、やる気は高いと答えたのに勉強量はほとんど変わらなかった、という実験があります。 - ④ 障害と「もし〜なら」をカードに書く
願いをじゃましそうな自分の側のこと(疲れると後回しにする、など)を一つ書き、「もし疲れていたら、5分だけやる」のように、そのときの行動を決めたカードを貼ります。 - ⑤ 言葉は大きく、色や字の形を変えて書く
絵は言葉より覚えやすいとされますが、言葉を色や字の形で目立たせると、その差が消えたという研究があります。手書きで、目立つように書きます。 - ⑥ 毎日目に入る所に置く
机の前や玄関、スマートフォンの待ち受けなど、続けやすい所で十分です。ただし、写真を目に入れておくだけで行動が変わるかは、研究者の間でまだ決着していません。 - ⑦ 週に1回、できたことを書き足す
ボードの端や近くのメモに、その週にできたことを書き足します。目標の進み具合を記録すると達成しやすくなることは、多くの研究をまとめた分析で確かめられています。月に1回は見直し、見込みが下がった願いは外してかまいません。
③・④・⑦を足すところが、よく紹介される作り方との違いです。もとの記事は、もうすでにそうなっている感覚が湧く画像を選び、叶った未来にいる自分を感じながら眺めると、脳がその状態を当たり前と認識し、行動が自然と願いの方向へ向いていく、と説明していました。けれども、眺めるだけで行動が自然に向くという説明には、根拠が見つかりませんでした。記録の書き方の見本は、引き寄せノートの記事で紹介しています。次の節からは、手順の裏づけになった研究を一つずつ見ていきます。
叶った姿を思い描く方法は、実験でどうだったか
思い描くことの効き目を長く調べてきたのが、アメリカの心理学者シェリー・テイラーたちです。1998年の論文の要旨で、目標にたどり着く途中や、ストレスになる出来事の成り行きを思い描くと、目標の進み具合や出来事の解決が進んだ一方、目標を達成したところを思い描くことでは進まなかった、と報告しました。要旨は後者を、自己啓発の本から出てきた勧めだと説明しています。
よく紹介されるのが、試験勉強の実験です(1999年に論文として発表)。中間試験の5〜7日前から、大学1年生に、良い勉強の仕方を思い描く、良い成績を取ったところを思い描く、その両方を思い描く、のどれかをしてもらい、自分の勉強を記録するだけの群とも比べました。論文の要旨は、勉強の仕方を思い描いた学生は勉強量が増えて成績も上がり、それは計画が立ったことと不安が減ったことを通していた、と書いています。
テイラーは2011年に書いた解説で、良い成績を思い描いた学生は、ほかの学生より勉強する気がとても高いと答えたのに、勉強した量にはほとんど影響がなかった、と振り返っています。叶った姿を思い描くと気持ちは高まっても、それだけでは机に向かう時間にはつながりにくい、ということです。
その後、研究をまとめた分析では
ただし、一つの実験だけで決めつけることはできません。思い描くことの効果を調べた研究をまとめた2021年の分析(123の結果、5,685人)では、思い描くこと全体に、はっきりした効果がありました。種類ごとに見ると、望む結果を思い描く方法にも、小さいながら確かな効果がありました(効果の大きさ0.23)。途中の過程だけを思い描く方法は、研究が5件と少なく、はっきりした効果は出ていません(0.17)。望む結果と過程を組み合わせた方法は8件で、効果は大きめ(0.61)でしたが、種類の間の違いは、統計の上でははっきりしませんでした。
この分析の著者は、さきほどの試験勉強の実験も、記録だけの群と比べた試験の点数でははっきりした差がなかったと指摘し、過程を思い描く方法はもっと追試が要る、としています。叶った姿を思い描くことが悪いのではなく、それだけで行動が自然に向くわけではない、と受け止めるのが研究に合っています。手順③で、叶った姿と途中の場面を並べて貼るのは、この組み合わせの考え方からです。
望む未来を楽しく空想することの多い人ほど、その後の努力や成果が低かった、という別の研究については、感情の先取りの記事にまとめています。
願いと障害を並べると、取り組みが変わる
ニューヨーク大学の心理学者ガブリエル・エッティンゲンたちは2001年、四つの実験で、望む未来の空想と今の現実を並べて考えてもらいました。すると、「実現しそうだ」という見込みが高い人は、計画を立て、努力も増え、目標への取り組みが強くなりました。見込みの低い人では、取り組みが弱くなりました。空想だけ、または現実だけを考えた人は、見込みに関係なく中くらいでした。
願いと障害を並べると、行けそうな願いには力が入り、遠い願いからは自然に手が離れる、ということです。手順②で見込みを考えるのはこのためです。手が離れることは失敗ではなく、限られた時間と力を、行けそうな願いに回せるという意味でもあります。
エッティンゲンたちは、願い・望む結果・障害・計画の四つを順に考える方法を「ウープ」と名付けて広めていて、多くの研究をまとめた分析で、小さいながら確かな効果が出ています。四つの書き方と、「もし〜なら、〜する」と前もって決めておく方法は、『引き寄せの法則』の記事とシンクロと引き寄せの記事で紹介しています。ビジョンボードなら、四つのうち願いと結果を写真で、障害と計画をカードで貼る、と考えると作りやすくなります。
写真を貼っておくと、行動は変わるのか
ビジョンボードには、目に入る所に写真を置いておくと、気づかないうちに目標を意識するようになる、という期待もあります。これに近いのが、写真や言葉で気づかないうちに目標を意識させる「ゴール・プライミング」の研究です。
2009年には、募金のための電話をかける職場で、従業員に配る資料に、走る競技でゴールする女性の写真を入れたところ、集めた金額が3割近く増えた、という研究が報告されました。その後、こうした職場の実験をまとめた2021年の分析は、中くらい以上の効果があったとしています。
これに対して別の研究者たちは、職場の実験を選び直してまとめ直し、効果の出た研究ばかりが発表されやすい偏りと、一つ一つの実験の人数の少なさがうかがわれる、と指摘しました。偏りを直す計算をすると効果ははっきりしなくなり、職場での効果は示されていない、という結論です。最初の研究にかかわった研究者たちは2023年に分析を更新し、同じくらいの効果が再現されたと反論していて、決着はついていません。気づかないうちに行動を変えるとされた有名な効果のいくつかが、大規模な追試で再現されなかったことも、批判の側は挙げています。
写真を貼ること自体に損はありませんが、貼っておけば自然に行動が変わる、とまでは言えません。手順⑦のように、できたことを書き足していくほうが、確かめられている方法に近くなります。
もとの記事の説明を、一つずつ確かめる
- 潜在意識は言葉よりビジュアルに強く反応する
絵は言葉より覚えやすい、という「画像優位性効果」は、記憶の研究で知られています。ただ2025年の論文は、白黒の絵と、色や字の形を変えて目立たせた言葉を比べると差が消えたという研究をもとに、絵が覚えやすいのは目立つからだと論じています。潜在意識が写真に強く反応する、という話ではありません。 - 中央に大切な願いを置くと、潜在意識へのインパクトが強まる
パソコンの画面で写真を見るとき、人はまず画面の中央を見る傾向があることは研究されています(2007年)。けれども、それで願いが叶いやすくなるという研究は見つかりませんでした。大事な願いを真ん中に置くのは、見やすさの工夫と考えてください。 - 暖色はエネルギー、寒色は直感、緑は癒し
色と運や力の結びつきには、出典が見つかりませんでした。好きな色、見て落ち着く色で選んでかまいません。 - 英語の肯定の言葉をカードに書いて貼る
自己評価の低い人が「私は愛される人間だ」とくり返すと、かえって気分が悪くなった、という2009年の実験があります。ただし2020年の論文の中の二つの追試では、この結果は再現されませんでした。くわしくは潜在意識と復縁の記事にあります。行動につながることが確かめられているのは、手順④の「もし〜なら」のほうです。 - 緊張や不安の状態で眺めると、潜在意識に良いイメージが届きにくい
出典は見つかりませんでした。 - 新月に振り返る
月の満ち欠けと振り返りの効果を結びつけた研究は見つかりませんでした。月末や週末など、忘れにくい日を決めておけば十分です。 - アナログとデジタルを使い分ける人が多い
どれだけの人が使い分けているかを示す資料はありません。紙でもスマートフォンでも、続けやすいほうを選んでください。
潜在意識がアンテナになって願いに関係する情報を拾う、という説明には、脳の「網様体」がよく持ち出されます。けれども辞典では、網様体は目覚めと意識を保つ仕組みとして説明されています。願いが叶う前兆の記事で紹介しています。
ビジョンボードは、どこから来たか
写真や絵を貼って願いを形にする方法は、古くは「宝の地図」と呼ばれていました。著述家シャクティ・ガワインが1978年に出した、想像の力で望むものを手に入れる方法を説いた本には、初版から、願いを絵にした宝の地図を作る節があり、とても強力な方法だと紹介しています。この本の日本語訳は、1986年、1999年、2009年に、それぞれ別の題で出ています。
ビジョンボードという呼び方は、起業家ジョン・アサラフの話とともに広まりました。成功の原則を集めたジャック・キャンフィールドの2005年の本に、アサラフが1995年にビジョンボードを作って壁に貼った、という話が出てきます。翌2006年に映画と本で話題になったロンダ・バーンの『ザ・シークレット』では、本の中でアサラフが、1995年にビジョンボードを作り始めたと語り、ボードを毎日見る所に置いて眺めるよう勧めています。日本語版は2007年に角川書店から出ました。海外の図書の目録で見る限り、書名にビジョンボードの語が入った英語の本は、2008年から出始めます。
日本では、国立国会図書館の目録で、書名に「ビジョンボード」を含む本は見つかりませんでした。日本で同じ方法を広めたのは、望月俊孝の「宝地図」です。書名に宝地図が入る自己啓発の本で最も古いのは、2003年の『幸せな宝地図であなたの夢がかなう』で、その後も同じ著者の本が続き、ほかの著者の本も出ています。2014年に別の出版社から出た版には、英語の並列の書名として「宝の地図」の語が添えられています。学校の健康教育の雑誌や大学の紀要には、宝地図を作る授業の実践の報告もあります。
英語の百科事典サイトの項目にも、成功を空想し続けるとかえって行動が減るおそれがある、という批判が載っていて、眺めるだけのボードの代わりに、行動を書き込む「アクションボード」を使う考えが紹介されています。手順⑦は、この考えとも重なります。
ビジョンボードそのものを試した研究は、見つからなかった
医学や心理学の論文の目録で探した範囲では、ビジョンボードを作った人と作らない人を比べて、願いの実現や行動を測った試験は見つかりませんでした。ビジョンボードを主題にした論文は、カウンセリングで目標を思い描く手助けとして使う方法を紹介したもの(2016年)や、カウンセラーを育てる指導で使った事例(2024年)で、効果を比べたものではありませんでした。
確かめられているのは、ボードそのものではなく、何をどう思い描くか、障害をどう考えるか、進み具合をどう記録するか、という部分です。ここで示した7つの手順は、その研究をボードの形に当てはめたものです。ボードを作る時間を、自分の願いを見つめ直す時間として使うつもりで取り組むと、無理がありません。
願いと障害を並べて考える方法を、研究者自身が一般の読者に向けて書いた本に、ガブリエル・エッティンゲンの『成功するにはポジティブ思考を捨てなさい』(大田直子訳、講談社、2015年)があります。出版社の紹介によると、夢が叶った様子を想像すれば思考は現実化する、という定番の助言に疑問を投げかけ、目標を達成するための四つの方法を示す本です。
よくある質問
Q. ビジョンボードには効果がありますか?
A. ビジョンボードを作った人と作らない人を比べた試験は、探した範囲では見つかりませんでした。確かめられているのは、何をどう思い描くか、障害と計画を考えるか、進み具合を記録するか、という部分で、作り方をそれに合わせることはできます。
Q. 叶った姿の写真だけを貼ってはいけませんか?
A. いけないわけではありません。研究をまとめた分析では、望む結果を思い描く方法にも小さな効果がありました。ただ、叶った姿だけを思い描いた学生が、やる気は高いと答えたのに勉強量はほとんど変わらなかった実験もあるので、途中の場面と障害への対策を添えるとよいでしょう。
Q. 願いはいくつ貼ればいいですか?
A. 決まりはありませんが、三つまでに絞ると動きやすくなります。願いと現実を並べた実験では、実現しそうな願いほど取り組みが強くなったので、見込みのある願いを中心にしてください。
Q. スマートフォンの待ち受けでもいいですか?
A. かまいません。紙でも画面でも、毎日目に入り、続けやすいほうを選んでください。写真を目に入れておくだけで行動が変わるかは研究者の間で決着していないので、できたことを書き足す習慣と組み合わせてください。
Q. 宝地図とビジョンボードは違うものですか?
A. ほぼ同じ考え方です。願いを絵にした宝の地図を作る方法は1978年の本に出てきて、ビジョンボードという呼び方は2006年の『ザ・シークレット』のころに広まりました。日本では2003年から、宝地図の名で本が出ています。


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